そうだ、ボルボEX30で京都行こう……カタログ航続距離は560km!? ホントに充電無しで京都まで行けるのか?
環境に配慮して電動化を推し進めてきたボルボ。そのEVラインナップの中でも、より多くのユーザーに訴求するピュアEVがボルボのミニマムモデルでもあるEX30だ。人気のコンパクトSUVクラスでもあるEX30だが、世界的な逆風もあり懐疑的なユーザーも多いのではないだろうか?筆者もそんな"EVに懐疑的なユーザー"のひとりだが、乗ってみればその意識が変わるのかどうか……EVには不向きと思われがちな長距離ドライブで試してみた。目的地は京都。 実質"初めて"のピュアEVで電気自動車嫌いの認識は変わるのか? ボルボEX30で京都にゆく…… 実は筆者、ピュアEVにちゃんと乗るのは初めて。モーター駆動というのであれば日産セレナや日産ノートのe-POWERには載っているし、三菱アウトランダーやジープ・ラングラー4xeなどのPHEVに乗る機会もあった。しかし、ピュアEVとなると日産サクラと日産アリアを氷上試乗会で乗ったのみという、現代のこの業界にあってあるまじき状況なのだ。 また、ガソリンエンジン&マニュアルトランスミッション大好き!なのと、ゴリ押し感のあった普及推進、インフラ整備のハードルの高さ、などなど……からEVについては、メリットも認めつつも個人的には否定的であったことは否めない。 そこで今回、機会を得てボルボのピュアEV『EX30』で、EVが苦手と言われる長距離ドライブをしてみることになった。目的地は京都。EX30の航続距離(カタログ値)は560kmで、京都までは第二東名ルートで概ね450km超(+撮影)、空いていれば6時間(移動のみの場合)ほどのドライブだ。 はたして、EX30に乗ってEVに対する印象は、認識は、改まるのだろうか? さすがモーター!パワーもリニアリティも文句なし!そして静か モータードライブについては今更何を言うこともないが、200kW(272ps)と343Nm(35.0kgm)の出力は車両重量1790kg(総重量2065kg)に及ぶボディを走らせるのに従分なパワー。アクセルオン/オフのリニアリティもモーターならではの魅力だ。高速道路での追い越しや坂などで速度が欲しい時に、アクセルを踏んですぐにパワーが立ち上がるのは実にストレスフリーだった。逆に、踏みすぎ注意の感はあったが、そこは上限設定のACCの出番だ。 そしてやはりモーターは静かだ。第二東名のような舗装状態の良い道路ならなおさらで、車内で音楽を楽しむのも会話を楽しむのにも良いし、夜間や早朝の住宅街で周囲に気を遣う度合いも減る。これはエンジン車がいくら制音に気を遣っても至れない境地と言えるだろう。 自動運転……こんなにラクでいいのか 筆者は基本的に自分でステアリングを握ってペダルを踏みたい派なので、自動運転が装備されていてもとりあえず試してみるくらいで渋滞中の追従以外あまり使わない(それすら使わないことも多いが)。今回もせっかくなのでEX30の自動運転「パイロットアシスト」を試してみたが、速度調整や車間や車線の維持、カーブの追従、追い越しや戻る際の車線変更のスムーズさには舌を巻いた。 アクセルを微調整して速度を維持するのは「だいたいそれぐらい」でいいアナログメーターと違い、速度が数字で表示されるデジタルメーターの方が神経を使う(だいたいそれくらいでいいのかもしれないが)。それが、自動運転だとピタリと維持してくれるのだから、足が楽だ。 ステアリングだって直進するだけでも路面や微妙なカーブに合わせて微修正しているのは意外に疲れる。 そういった微妙な疲労の積み重ねを軽減してくれるのは、安全確認に意識を集中する余裕、移動で疲れずその先のアクティビティや帰路のために体力を温存するのに有効なわけだ。特にEX30は精度も良く、動きも自然だったことから違和感なく(これが重要)クルマに委ねられたのが良かった。 航続距離は十分だが、充電はこまめに……がEV利用のコツ? 現在、充電器の利用料金は時間課金制だという。つまり、長時間利用しているとその分料金がかかってくる。そして、急速充電は満充電まで10%~20%までは早いが、そこから先は時間がかかる。なので、外での充電は満充電にしない範囲で、こまめに短時間充電で済ませるのが料金的にはお得ということだ。 長距離移動ともなれば、どうせ食事やトイレ、コーヒーブレイクで休憩することもあるのだから、その時間でちょっと充電しておけば十分のようだ。 このEX30はバッテリー容量が69kWhで航続距離は560kmなので、そんなドライブの仕方ならバッテリー残量をそれほど心配しなくて済むだろう。残りの航続距離的には確かに京都まで無充電で行けそうではあったが、ランチついでに初めての充電体験をすることにした。 幸いスマートフォンアプリで充電器の空き状況や使用時間がわかるので、バッテリー残量と相談しならタイミングを図る。幸い平日でもあり充電器は空いていたが、休日ともなれば充電器の使用率も上がるだろうから、ある程度計画的な充電を考えた方がいいかもしれない。 第二東名は一部区間の制限速度が120km/hに緩和されているが、EX30が120km/h巡行で苦労する事は微塵も無いのだが、120km/hで巡行していると電池残量の減りが目に見えて早い。逆に80km/h~90km/hくらいの巡航速度だと驚くほど減らない。この辺りにEX30の長距離ドライブのポイントがありそうだ。 なお電費は車載電費計で14.1kWh/100kmと出た。WLTCの表記Wh/kmに直すと141Wh/kmとなる。EX30のカタログ電費は、市街地モードで141Wh/km、郊外モードで131Wh/km、高速道路モードで151Wh/kmとなっている。行程的には高速道路がほとんどだが、市街地での走行も加味すると概ねカタログ通りといったところか。 残量が減っていくのは燃料計でも同じなのだが、アナログメーターの燃料計よりも数字が刻一刻と変わるバッテリーの方が心理的にプレッシャーがかかるのは筆者だけだろうか? 電費計もあって予想航続距離も把握できるのに、不思議なものだ。 自動駐車の進化と精度に驚き 慣れているドライバーにとってはどうということもない駐車だが、苦手に感じるドライバーもいる。昨今はセンサーやカメラも進化して自動駐車の精度もかなり上がっていると聞く。 実際、EX30にもその機能は付いており、せっかくだから試してみたところ、慣れているドライバーのようにスピーディにというわけにはいかないものの、少なくとも駐車精度においては実用できると感じられた。自動駐車を始める前の操作も、慣れればさして手間取ることもないだろう。 今回は普通にバック駐車で試したが、より難易度の高い縦列駐車ではどうなるのかが気になった。 日産のプロパイロットが出始めたばかりの時に、やはり自動駐車を試したものの、準備段階の条件設定(駐車スペースを認識させるために停車する位置など)がシビアすぎたし、精度もスピードもイマイチでヒヤヒヤ&イライラして使いづらかった記憶がある。それに比べれば格段の進歩だ。 サイズ以上に見切りの良さがGood! EX30のボディサイズは全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mmという、世界的に見れば"コンパクト"SUVサイズだが、ホイールベースは2650mmを確保し、フラットフロアと合わせて室内は広々している。一方で、最低回転半径は5.4mに抑えられ、取り回しはとても良かった。 1800mm超えの全幅は多少気を遣うものの、切り立ったリヤゲートはもちろん、ボンネットやフェンダー、窓やミラーからの見切りはよく、意外と狭い道でも難渋する事はなかったは意外だった。大きめのクルマでも、見切りが良ければなんとかなるタイプの好例だ(他にも、ジープ・ラングラーやメルセデス・ベンツGクラスがこのタイプ)。 おかげで路上駐車の多い都内の道でも、京都の狭い路地に迷い込んでもさほど苦労する事はなかった。クルマは大きくなる一方だが、道路は必ずしも広くなっているところばかりではない。こうした視界の良さや取り回しの良さに、ボルボの伝統と良心を感じる。 数ある選択肢のひとつとしてEVはアリ……ライフスタイル次第ではあるが ボルボEX30はEVとして十分実用になる。クルマとしての出来に良さは疑いようもない。さすがボルボ。そして、EVに慣れて上手い使い方を覚えれば、EV同様に非常に効率よく運用できるはずだ。しかし、それにはEVを前提としたライフスタイルやドライブスタイルが求められるように思う。 先に述べたように、外での充電はこまめに、満充電は家で行うのが時間的にも料金的に効率が良い。となると、やはり自宅には自由に使える給電システムを備えておきたい。 長距離は、ご飯休憩、トイレ休憩、コーヒータイム、etc……最近のサービスエリア/パーキングエリアはコンテンツが充実しているので、ちょいちょい物見遊山で道中を楽しむ。そんな余裕のあるドライブに向いている。もちろん、近距離利用での利便性や経済性は言わずもがなだ。 残価設定ローンやサブスク、カーシェアなど昨今はクルマの所有形態も変化しつつある。近距離用のシティコミューターとしてEV、旅行や長距離にはエンジン車と複数台所有する、或いは両用するためにPHEVを選択したり、前述のサブスクやカーシェア、レンタカーを利用するといったカーライフもある。しかし、いつでも好きに使えるクルマを1台所有するとなるとEVを選択するのには抵抗があるのもわかる。 でもEX30なら、自宅に充電設備が設置できるのであれば、EVでも1台でカーライフを充足させる事は可能だろう。 ちなみにEX30の価格は559万円。コンパクトSUVとしては高価だが、輸入車であること、EVであること、ボルボが長年誇ってきた安全性能、そして昨今の自動車全体の値上がりを考えればそこまで割高というほどではない。むしろ、EVの助成金を含めると400万円台になり、バリュー・フォー・マネーとしてはむしろお買い得とも言える。なお、EX30は全ボルボ車ラインナップの中で最安であることも付け加えておこう。 EVに対する認識は自分の中でEX30のドライブで多少なりとも改まった。とはいえ、EVに対する懐疑は未だ完全に払拭されたわけでもない。それをひとまず置いておいたとしても、EX30は良いクルマであったことは間違いない。 ボルボEX30×京都フォトギャラリー
大橋 俊哉