若年層のデニムブームをけん引するディーゼル バギーデニム再燃の背景
近頃、街には「ディーゼル(DIESEL)」のバギーデニムを穿いた若者が目立つ。その影響か、近頃は大手ファッションECでボトムスを探すと、メンズ・ウィメンズともにランキング上位の大半をバギーシルエットのアイテムが占めている。デザインの傾向もウォッシュ加工やクラッシュ加工を施したディーゼルのクリエイションに通じるY2Kテイストだ。本稿では、ディーゼルのブランド担当者への取材を通して、トレンドの火付け役になったと予想されるグレン・マーティンス(Glenn Martens)のクリエイションを紐解く。 【画像】次に流行る? ディーゼルの新作 【グレン・マーティンス】 ベルギー・ブルージュ生まれ、アントワープ王立芸術アカデミー出身。在学中からブルーノ・ピータース(Bruno Pieters)に師事し、H&M傘下の「ウィークデイ(WEEKDAY)」や「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」のコレクション製作に携わる。「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」などで経験を積んだ後、自身の名を関したブランドを設立した。デビューから3シーズンが経った2013年に「Y/PROJECT」創業者のヨハン・セルファティが死去し、後任としてクリエイティブ・ディレクターに就任。2017年にLVMHプライズにノミネートされ、同年ANDAMファッションアワードを受賞した。2020年に「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイティブ・ディレクターに就任。今年9月、「Y/PROJECT」のクリエイティブディレクターを退任することを発表した。
バギーデニムとは?
袋のように広大で直線的な形状のルーズなストレートパンツのこと。1970年代初頭に流行した。バギーは「袋のような」の意。極端に太く、股上が深いのが特徴的。
ブランドのDNAであるデニムを一新
2020年10月にディーゼルのクリエイティブディレクターに就任したグレン・マーティンス(Glenn Martens)は、2022年春夏コレクションでディーゼルでのデビューコレクションを発表した。就任以降グレンが力を入れてきたのは、デザイン、サステナビリティ、コミュニケーションまで一貫したリブランディング。40年以上続くブランドに参画し改革する立場に立ったグレンは、膨大なアーカイヴの分析の上で、「ブランドの主軸であるデニム」、「実用性のユーティリティ」、「ミュージシャンたちが着用するようなポップな華やかさ」、というブランドの3つの柱に立ち返ってデザインに向き合っていると過去のインタビューでも語っている。 ワークウェアとしてのデニムをカジュアルファッションに昇華させていくことで市場を開拓していったディーゼルにとって、「デニム」はキーアイテム。グレンは、それまでディーゼルが展開してきた「革新性」や「パンク性」といったイメージに、未来の社会でファッションブランドが果たすべき責任としてのサステナビリティの意識と、多様性の考え方を取り入れアップデートした。以前まではメンズブランドとしての印象が強かったコレクションをジェンダーレスなユニセックス提案に切り替え、デビュー作の2022年春夏コレクションでは、ジェンダーレスでサステナブルな新ライン「ディーゼル ライブラリー(DIESEL LIBRARY)」を始動した。 ジェンダーレスでサステナブルなプロダクトの考え方、1990~2000年代のムードを取り入れたクリエイションは若年層の心を掴んでいる。グレンが手掛けた2022年春夏シーズン以降、シーズンを重ねるごとに若年層世代の顧客が増加傾向にあり、顧客層のうちの若年層の割合も徐々に高まっているとブランドの担当者は話す。こうしたリブランディングを象徴するアイコンのひとつがバギーデニムだ。 これまでもスキニーからワイドまでデニムを強みとして展開してきたディーゼルだが、グレンが就任してから誕生したウィメンズの「D-SIRE-CARGO」とメンズの「D-RISE」の2モデルは、中でもジェンダー問わずに人気なシルエットに成長。売上数も年々伸長しており、再入荷しても早々に欠品するという。グレンが提案するアイテムやスタイリングがY2Kトレンドにマッチしたこと、多くのセレブリティやK-POPアーティストが着用したことが影響し、若年層から高い支持を集めるに至ったとディーゼル社は分析している。 パリとミラノを毎週行き来し、ディーゼルと共にクリエイティブディレクターを兼任していた「ワイ・プロジェクト(Y/PROJECT)」を今年9月に退任したグレン。ディーゼルに注力することになった同氏のクリエイションがどのように進化するのか期待が高まる。