カスハラがなくならない根本的な理由、暴力的な相手でも“顧客”と見なし続ける“職場”も加害者と言えるのでは?
■ 「土下座で済むなら、さっさとひざまずく」職場も 厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、カスハラに類する行為の具体例が挙げられています。例えば「暴言」に該当する行為としては以下のようなものです。 ・大声、暴言で執拗にオペレーターを責める ・店内で大きな声をあげて秩序を乱す ・大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し これらの行為は確かに従業員に過度なストレスを与え、カスハラに該当する可能性が高いように感じます。しかしながら「大声」や「罵声」、「執拗」などは、その度合いや従業員側の受け取り方次第で、認識が大きく左右される要素です。 また、最初のうちは顧客が柔らかい口調で話していたのに、従業員側が舌打ちするなど不快な態度をとったことで顧客が立腹し、瞬間的にキツめの口調になったり、声が大きくなったりした場合など、顧客側に一方的に非があるとは言えないケースも考えられます。 仮に顧客が大声を張り上げて怒鳴るような場面が生じた際、社会通念と照らし合わせて従業員の落ち度が明らかだったのだとしても、顧客の振る舞いが問題であることには違いありません。しかし、職場としては従業員の態度を改めさせる必要もあるはずです。 もしそれをしなかった場合、職場は顧客に不愉快な思いをさせても良いと容認したことになります。すると、顧客が立腹するような事態が繰り返され、それを従業員がカスハラだと扱ったりすれば、顧客との信頼関係は損なわれていくことになります。また、不愉快な態度が容認される職場では、従業員としても接客スキルが身につきません。 一方で、従業員側に非があったのだとしても、顧客の言動が行き過ぎたものであれば話は別です。土下座を強要したり、暴力行為に及ぶなどというようなことがあれば、人格が傷ついたりケガをしたりする危険性があります。安全配慮義務の観点から考えても、職場としては従業員の身に危害が及ぶ状態を良しとするわけにはいかないはずです。 ところが、中には激高した上得意客の前で土下座して何とか許してもらった、といった武勇伝が嬉々として伝説のように語られる職場もあります。そんな価値観が根づいた職場だと、従業員が「顧客から土下座を要求された」と訴え出たところで、「土下座で済むなら、さっさとひざまずいて許してもらってこい!」と一喝されかねません。 一般的にはこのような対応は非常識であっても、それを当たり前とする企業文化の職場では、「価値観の違い」だと認識されがちです。いわゆる“社会通念”という考え方が通用せず、極めてドメスティックな“会社通念”で判断されてしまう職場は少なくありません。