悩みながら走る、熊本のスタートアップ 学生起業からピボット経験は100回以上
地方起業で注目、実態が伴わないという葛藤
杉山(続き):僕は元々クリエイターの方々がクリエイティブな事業に集中できるように、それ以外の雑務や庶務をお手伝いしたいと思っていました。別にイラストを描いている人だけがクリエイターなわけではなく、エンジニアリングやビジネスを作る人たちにも創業的な作業がたくさんありますよね。そういうところを包括的にサポートしていきたいと思って取り組んでいます。 プロダクトとしては、プロジェクトマネジメントに必要なタスクを管理したり、チームメンバーをタスクにアサインしていくような機能があります。その周辺として決済機能や帳票の発行まで行えることが特徴です。 クリエイター向けオールインワンツールからスタートしていることもあり、本名や住所をあまり出したくない方のために匿名で決済する機能やバーチャル銀行口座を作ることのできる機能も提供しています。 これまでに色々な変遷がありました。学生の時からやりたいこと自体は一緒ですが、ピボットもたくさんしてきていて。別にフリーランスやクリエイターという肩書きにこだわりたいわけではありません。一人ひとりの得意なこと、創造性の高いことに集中してほしいと思っているんです。 ■チヤホヤしてくれるが、実態が伴わないという葛藤 山田:これまで一番辛かったのは、最初に起業した時でしょうか? 杉山:その時はむしろ、会社を登記しただけで起業した感覚はそんなにありませんでした。登記はしたけれど、僕は学生と何が違うんだろうと思いながらやっていたんです。ですが、周りはちやほやしますよね。登記しただけで長崎の新聞に載ったり……。それに対して、実態とかけ離れている感覚があるけど、自分にも承認欲求があったり、ここからチャンスにしなきゃいけないと思ってしまったりと辛かったんです。 記者の方に、記者が言いたいことを言わされることもありました。 藤田:例えばどんなことでしょうか? 杉山:「長崎はイケてない」とか。長崎にいましたが、福岡で登記しているんです。だから、長崎がイケていないから福岡に行っていますという見せ方がしたかったんだと思います。その気持ちももちろんありましたが、長崎がイケていないというよりは、自分に力がないからこそ成長できる外部環境に飛び込まないといけないと思っていました。 地方学生が頑張ると、大人がすごくちやほやしてくれることをすごく感じましたね。 藤田:そこから離れようという気持ちもあったんでしょうか? 杉山:そうですね。このままじゃダメだという感覚になりました。その時は事業を考えるにしてもノイズが多いし、実力も全然なかったので。 しかも、インターネット産業をやりたいのに地方にいて、コロナ前なのでベンチャーキャピタルも上京しないと出資しないと言う人ばかり。そこで、プライドも全部捨てて、どこか入れてもらえる企業がないか、テッククランチやPR TIMESなどの配信メディアで、資金調達をしたばかりで自分のやりたいことをやっている企業を探して直談判している中で、クオンに入社しました。 ■会社員は楽しいけれど、辛くないのは起業家だった 山田:もう一度起業でやり直していけるという確信を持ったタイミングはありましたか? 杉山:そんなになくて、今もどうなんだろうと思っているところは正直あると思います。 シリーズAになったら思うのか、IPOまでいけば思うのか、と結構考えます。ですが、先輩方を見ているとみんなそれなりの不安をずっと抱えて悩んでいるので、そういうものかなという感覚はありますね。 でも、自分には起業家の道しかないって思ったんです。