住民の移動とタクシー事業を支える「TAKUZO」…人口減少の島根県【MaaSがもたらす都市変革】
神門通りと出雲大社大鳥居
人口減少が続く日本。その中でも深刻な地域のひとつが山陰だ。都道府県別の人口で、もっとも少ないのは鳥取県、次が島根県となっていることからも、厳しい状況がうかがえる。今回取り上げる島根県で見ると、1950年代には90万人を超えていたというが、現在は約65万人となっている。当然ながら交通も影響を受けており、県西部の江津市と広島県三次市を結んでいたJR西日本(西日本旅客鉄道)三江線は、2018年に廃止となった。 とはいえ現在も多くの人がここに暮らしており、地域の足の維持は必須である。今回は厳しい状況の中、先駆的な取り組みによって解決を図ろうとしている事例を紹介する。バイタルリードが展開する「TAKUZO」だ。同社代表取締役の森山昌幸氏に話を聞いた。 ◆地域交通の衰退は住民の命に係わる 「大学では農業土木を学び、卒業後は建設業界で仕事をしていたのですが、次第に交通に興味を持つようになり、30代で広島大学交通工学研究室の修士課程を修めました。その後会社を立ち上げ、もう一度広島大学に通って博士課程も修了し、中国地方の中山間地域の交通計画のシステム開発などを手掛けているうちに、地域の運輸局や自治体から声を掛けていただくようになりました」 バイタルリードという社名は、地方を元気にしたいという経営理念とともに、地域交通の衰退は住民の命に係わるという危機感をも込めたものだという。現在はコンサルティング事業を中心に、情報システム事業、旅行事業の3本柱で運営。出雲市にある本社の他、広島市に支店、松山市・鳥取市・山口市に営業所を構えている。 コンサルティングでは、広島市などの大都市圏には参入せず、地方に重点を置いている。実情を熟知していることもあるが、高齢化などは全国に先駆けていると言えるわけで、ここでの経験が他の地域に生かせるという理由もある。なによりも地方を元気にして、幸せな社会を作りたいという気持ちが大きいと話していた。コンサルティング事業の範囲は広く、出雲大社の参道から続く神門通りのシェアドスペース(歩車共存型道路)転換事業にも関わっている。ちなみにこの神門通りは、土木学会デザイン賞で最優秀賞に輝いた。交通関連では石見銀山でのグリーンスローモビリティ「ぎんざんカート」運行、自動運転を導入した場合の社会受容性調査、除雪車のマネージメントなどを担当してきた。 情報システム事業は、自治体のデータ整備の仕事を手掛けたのがきっかけで、これを使って何ができるかを大学の先生と議論しているうちに構想が膨らみ、スペシャリストを雇用したりして事業化につなげた。ビッグデータ解析も担当するほか、「馬須田(ばすだ)のるぞう」と名付けたカウンター内蔵バス車載器の開発もしている。 旅行事業の代表格は「あいのりタクシー」だ。観光客向けのタクシーシェアリングサービスで、インターネットでメンバーをマッチングし、1台のタクシーに相乗りして観光地を巡るもので、マッチングする人が多いほど割安になるし、公共交通が不便な場所でも観光が満喫できる。 ◆地方のための新しい交通サービス「TAKUZO」 そしてこの3つの事業のノウハウを融合させたのが、5年前に実証実験を始め、翌年から本格サービスに移行した、地方のための新しい交通サービス「TAKUZO」だ。以前から森山氏が提案をしていたものの、実行する人がいないので自分で立ち上げたそうで、サブスク(定額)、乗合、AIオンデマンドが特徴となっている。
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レスポンス 森口将之