なぜアメリカで大ヒット? 映画『シビル・ウォー』の“本当と嘘”とは? 軍事ライターがわかりやすく解説。考察&評価レビュー
11月のアメリカ大統領選を前に、あちこちで分断が進むアメリカ合衆国。そんな中、とある作品が話題を集めている。その名も、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。近未来のアメリカの内戦を描いたスリラー作品だ。そこで今回は、本作が持つ意義を政治的な観点から紹介。混迷を極める大国アメリカの現在に迫る。(文・宮永忠将) 【写真】緊迫感みなぎる…貴重な未公開写真はこちら。映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』劇中カット一覧<
「Civil War」または、アメリカ史上最大の悪夢
2024年春にアメリカで公開されるや瞬く間に大ヒットを記録。そんな話題作が遂に日本公開となる。「もし今のアメリカで社会を二分する内戦が起こったら?」そんなテーマを描き出した映画だ。 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、現在のアメリカ社会が「そこにある危機」として感じている切実な社会的分断と、その先にある暴力の恐怖を、アメリカ人であれば誰にでも伝わる形で描いている。それだけに、かなりアメリカ社会の機微に触れる部分も多く、日本人には相当わかりにくい部分もある。 そこで、本作を鑑賞する上で役立ちそうないくつかの重要ポイントについて解説してみたい。 まずタイトルの「シビル・ウォー(Civil War)」とは、辞書的には「内戦」のこと。しかしアメリカ人にとっては、この言葉はそのまま「南北戦争」を意味する。他国の内戦には色々な呼び名が付くが、単純に「Civil War」と呼ぶときは、自分たちの歴史の話となる。 マーベルMCUの『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』も、アメリカを代表するヒーローたちが真っ二つになって戦うしかなかった展開を、最も短い言葉で表現したもの。「同じ兄弟姉妹なのになぜ争うのか?」そんな悲劇的な空気を含む言葉なのである。 ちなみに歴史における南北戦争とは、19世紀後半の1860年代、奴隷制を巡り、廃止を求める北部と、継続を望む南部の間で4年以上も戦われた内戦。戦死者は両軍合わせて62万を数え、アメリカに最大の損害をもたらした戦争なのである。なにせ第二次世界大戦だって、アメリカ軍の死者は40万なのだから、Civil Warが蘇ることは、アメリカ社会にとって最悪の悪夢なのだ。