飲み水のPFAS基準値は世界各国より大幅に緩い「1リットルあたり50ナノグラム」にと発表、このまま認められるのか
「基準値の10%程度を目標に」という意見も出たが…
また、青木康展委員(国立環境研究所名誉研究員)も手を挙げた。環境省の資料には「(健康影響に関する)情報が不十分」とあるが、この基準値づくりに反映されていない健康影響への懸念が実際にあるとしたうえで、こう語った。 「『情報が不十分な、有害性があるという物質』ということからすると、やはりこのベンチマークの10パーセント程度を、場合によっても一つの目標とするというのは重要なことであると思います」 ベンチマークとは、今回、水質管理の目標値を基準値にするのにともなって全国の浄水所の実態を調べるにあたり、目標値の10パーセントを超えるかどうかを目安としたことを指している。 いずれにしても、基準値は安全側に立って決められたものであるとの説明を受け入れながら、飲み水として提供するときはその10パーセント、つまりPFOSとPFOAの合計で「5ナノグラム」を目指すのがいい、というのである。 たしかに、リスク管理においては、合理的に達成可能な限り低くする「ALARA(as low as reasonably achievable)の原則」があるが、10分の1の濃度で管理するのが望ましいのであれば、そもそもの議論の前提が揺らぐような指摘ではないだろうか。 これを受けて、検討会の座長をつとめる松井佳彦・北海道大学名誉教授が、音声のミュートを解除した。活性炭を頻繁に交換するなどコストをかければ濃度を抑えられることを前提に、こう語った。 「合理的なコストということで考えれば、(PFOSとPFOAの)合算値で1桁台っていうのはけっこう厳しいんじゃないか。10パーセントにすると5(ナノグラム)になりますので、若干厳しいんじゃないかなというところは感じているところでございます」 基準値の10パーセントとなる「PFOSとPFOAの合計で5ナノグラム」を目指すのは技術的には可能だが、コストを考えると現実的ではないとの見方を示した。 その直後、環境省の担当者がすかさず発言した。 「50ナノグラムは一生涯、飲み続けても影響がないといったところの観点から算定しているので、それが満たされていれば水道水としても問題ないのかなというふうに考えております」 5ナノグラムに下げなくても50ナノグラムで健康への影響はない、と基準値の正当性をあらためて強調したのだった。 一瞬、光が当てられたかにみえた懸念は打ち消され、まもなく「PFOSとPFOAの合計で50ナノグラム」を基準値とする方針が正式に決まった。