「次のパンデミック」に備えるネットワークをどう確立させるか? SNSがつないだ「絆」(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
――集めるのがこんなにもややこしく面倒な検体の収集を、いったいどこの誰に頼めるのだろうか? ここで光明となったのも、やはりSNSであった。G2P-Japanとしての最初の論文(6話)やそれに続く論文(45話)を立て続けに発表することで、2021年の半ば頃には、「G2P-Japan」の文字が、ウェブニュースや新聞記事、テレビのニュースにも取り上げられ始めていた。 それと時をほぼ同じくして、新型コロナの流行状況や感染対策について、夕方のテレビニュースに頻繁に登場してコメントをしたり、ツイッター(現X)で過激な(?)発言を繰り返していたのが、インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁(くらもち・じん)院長である。 倉持先生との面識はなかったが、ツイッター(現X)の発言からも、新型コロナ禍への問題意識が高いことは明らかだった。その発言で時折炎上はしていたものの、科学に理解のある情熱的な先生なのだろう、というポジティブなイメージを持った私は、面識がないながらも、ツイッター(現X)のダイレクトメールで接触を試みた。 倉持先生は、すぐに前向きな回答をくれた。そして、鉄を熱いうちに打つために、私はすぐにアポを取り、栃木県宇都宮市にあるインターパーク倉持呼吸内科を直接訪問し、現在の状況と、協力をお願いしたい内容を伝えた。 これは後で知った話なのだが、この時に私が求めていた、複数の情報が紐づいている必要のある、質(①スワブや痰と②血清)や時期(①発症時と②回復後)がバラバラの検体を、大学病院のような総合病院で収集するのはきわめて難しいようだった。 なぜなら、①と②で担当する診療科が違うからである。①は、新型コロナの場合には救急診療科の場合が多いようである。それに対して②は、呼吸器内科や感染症内科が担当になる。さらに、検査のための採血の場合などには、検査部がそれを保管していたりする。これらの情報をすべて紐づけて、総合病院の中で一元的に管理することをお願いするのはとてもハードルが高い。 さらにもうひとつ、病院の忙しさも大きなファクターであった。これまでの流行動態を見ても明らかなように、流行が拡大して医療がパンクする繁忙期と、流行が落ち着いて感染者がいない閑期のどちらかしかなかった。検体提供をお願いしても、前者の時期だと「忙しくてそれどころじゃない」、後者の時期だと「患者がいないからそもそも集められない」となる。 それが、インターパーク倉持呼吸器内科の場合、院長が頻繁にメディアに出ていたこともあり、地元での知名度も高く、患者さんがたくさん集まる中核病院として機能していた。僥倖だったのは、「呼吸器内科」であるので、①発症時の痰と②回復後の血清という、質も時期も異なる検体が一元管理されていた。 そしてなにより、倉持院長の熱意と科学への理解から、外来で通院されていた患者さんにもお願いいただくことで、回復後にも通院いただき、たくさんの血清を収集してもらうことが可能となった。流行が急拡大して多忙の極みであると思われる時期でも快く対応してくれて、検体を定期的に提供いただけるようになった。