一度は引退に傾いた村田諒太はなぜ再起を決断したのか。その選択は正解なのか
ターゲットはブラントとの再戦か、五輪決勝因縁相手か?
自宅近くにできた元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者、内山高志の新しいジム「フィットネス&ボクシングKOD LAB」も訪ねてみた。軽く汗を流し、内山氏からもアドバイスをもらい、自分にまだ伸びシロが残っていることを再確認したという。 「伸びシロだったり、前回よりもいいパフォーマンスができないと意味がない」 自分への可能性を再発見したとき、それが再起へのモチベーションのひとつになった。 「もう一回世界の舞台に立ちたい。ハングリーになって気持ちを高めていきたい。ラスベガスで勝利? どこでもいい。日本のボクシング界にどう貢献していけるかが大事」 再起イメージは具体的に言わなかった。 ブラントとのリベンジマッチに「こだわるつもりはない」という。 「この階級で奇跡的に皆さんの尽力で世界まで辿りつけた。それ以上に厳しいことはわかっている。与えられた試合をやらせてもらうだけ。その前に“試合を組んでやろう”と思われるパフォーマンスを練習で見せないと」 空手の逆真会館を興した東京新聞の山崎照朝さんが核心をつく質問をした。 「日本のボクシング界への貢献ではスケールが小さくなったのではないか」 村田は、再起の終着点を世界王者の再奪取とも、ミドル級の頂点に立つWBC、WBA世界スーパー王者のサウル“カネロ”アルバレス(28、メキシコ)とも、元3団体統一王者のゴロフキンとも言わなかった。 村田は、困った顔をした。 「負けたのであまり大きなことは言いたくない。ゴロフキンやカネロを追いかけると言って、“お前、その前のレベルで負けていて何言ってんの?”となる。ボクシングで示していければいいのかと」 では、村田が再起リングで示すボクシングとは何か。具体的に何を成し遂げた時に村田劇場はエンディングを迎えるのか? 「難しい質問です」 村田は、こう続けた。 「世界王者になり満足したところもある。ハングリーでなくなった人間が腹に貯まったものを吐き出すのは難しい。新しい何かがあれば力が湧いてくる。それを見つけないと。誰とやるのか。こういうことをやるんだ、が今は明確じゃない」 現WBA世界王者のブラントがロンドン五輪ミドル級銀メダリストで同級6位のエスキバ・ファルカン(28、ブラジル)と来年2月15日に米国ミネアポリスで初防衛戦を行う計画が組まれている。2人は共に村田のプロモートを任されているトップランク社の契約ボクサーのため、勝者と村田のマッチメイクに障害はなく、しかも、どちらが勝っても村田とのドラマ性は十分にある。 ブラントはリベンジ。ファルカンは、村田の原点ともいえるロンドン五輪決勝の再現。「あの試合は村田に負けていない」と主張するファルカン側の思い入れもある。 村田自身は、「五輪は半分ラッキー。運に恵まれた。それが僕の中の五輪」と言うが、東京五輪でのボクシング存続問題が、来年6月のIOC総会まで先送りされている現状からすれば、“五輪決勝再現対決”は、時期によれば、その存続問題ともリンクしてクローズアップされる。 村田はスーパーミドル級への転級も示唆したが、ラスベガスでの敗戦で米市場での価値を落とした村田が一から世界への階段を上るのは容易ではない。32歳の村田にそれほどの時間も残されていない。推測の域は出ないがターゲットは、この試合の勝者だろう。