熊谷市全域で民間主導の「子ども食堂」広がる背景 大学や企業とも幅広く連携、多方面にメリット
地域愛を生み、みんなで子どもたちを育む前向きな拠点に
両氏が「自然と活性化していく」と感じた事例はいくつもある。 加賀崎氏の教え子の立教大生が、大学の授業に関係なく熊谷を訪れて、自主的に地域の人と交流するようになった。あるいは山口氏の子ども食堂や学習支援拠点を巣立った子どもたちが成長し、ボランティアになって戻ってきたり、アマゾンの「ほしいものリスト」から援助をしてくれたりする。子ども食堂のボランティアを体験した市民が「私もやりたい」と、新たな食堂をオープンした例もある。 首都圏でも人口減少が取りざたされる今日にあって、プロジェクトは市民の郷土愛を育み、関係人口を増やす一助となっている。加賀崎氏は「まだまだ可能性は大きい」と期待を語る。 「都心に本社を置きながら、この辺りに倉庫を持つ食関連メーカーは多くあります。そうした企業ともっと協力できれば、輸送の手間とフードロスの双方を解決することができ、ウィンウィンの関係が築ける。また、熊谷市でも耕作放棄地が問題になっていますが、市内の多くの子ども食堂と提携することで農家の収入が安定し、新規就農の後押しにもなるはずです。これは東京から比較的近く、広い土地もある熊谷市ならではのポテンシャルだといえます」 子ども食堂を「かわいそうな人のためのもの」「貧しい家庭への福祉対策」と捉えるなら、それは「本当はないほうがいいもの」になるだろう。だが加賀崎氏が目指すのは、大人がまず幸せになり、地域を活性化する前向きな拠点だ。「子ども食堂をきっかけにして地域愛が生まれる。愛する地域の『未来』である子どもたちに対して、みんなができることを少しずつやる。そんな社会になるといいなと思います」と語った。 (文:鈴木絢子、写真:加賀崎氏提供)
東洋経済education × ICT編集部