熊谷市全域で民間主導の「子ども食堂」広がる背景 大学や企業とも幅広く連携、多方面にメリット
「それ、福祉でしょ?」子ども食堂への不信を克服するには
埼玉県熊谷市の全28小学校区で、子ども食堂の開催が広がりつつある。市全域での民間主導による取り組みは全国初だ。2024年2月には、市内31店舗の飲食店などで試験開催を実施。現在は一部店舗での開催を継続しながら、夏からの一斉スタートを目指して最終的な準備を進めている。この活動の中心となる一般社団法人「熊谷こどもまんなかネットワーク」の加賀崎勝弘氏、山口純子氏に、取り組みのこれまでとこれからについて聞いた。 【写真を見る】テイクアウト式もあれば、店内飲食可能な店も。さまざまな店舗によって、市内のどこかで毎日食事を提供する 貧困や孤食などの事情を抱える家庭への援助として、自治体や地域住民によって設けられる子ども食堂。最大の目的は貧困対策であるため、そこにはどうしても悲壮なイメージがつきまとう。 だが、民間団体である「熊谷こどもまんなかネットワーク」が進める熊谷市の子ども食堂は、何だか明るく楽しそうだ。既存の子ども食堂に加えて地域の20以上の飲食店に協力を得ているため、おしゃれな洋食もあれば本格的な手打ちうどん、そばもある。 世代を問わず高齢者もコミュニケーションできる拠点もあるし、大学生や高校生といった若者が参加する機会もある。同ネットワークの統括ディレクターで、市内で飲食店を経営する加賀崎勝弘氏は語る。 「市の学校関係者に、『給食がない夏休みが明けると、げっそりやせて登校してくる子どもがいる』と聞いたのです。この現代で、この熊谷で? と、最初は信じられなかった。でも聞いてしまったからには、無視したら後悔すると思いました」 加賀崎氏は子ども食堂を実施しようと決め、協力を仰ごうと企業や飲食店を回り始めた。だが、返ってきた反応には冷たいものも多かった。とくに忘れられないのは「それ、福祉でしょ?」という言葉だ。政治や行政への不信感からか、「本当に必要な人に届くの?」と半信半疑の人もいたという。 「私自身、数年前に『子ども食堂に協力してほしい』と言われたことがあったのですが、当時はその必要性がピンと来ませんでした。疑う人の気持ちもとてもよくわかる。広く協力してもらうためには、このプロジェクトを世間的な『福祉』の枠から外に出す必要があるのだと感じました」 冒頭の「明るく楽しそう」な印象の理由は、おそらく、この加賀崎氏の姿勢にある。同氏は民間団体を立ち上げるだけでなく、自身が講師を務める立教大学の授業にこの活動を取り入れ、学生を巻き込みながら発展させている。若者の参加が多いのはこのためだ。 それぞれの食堂の運営には広くボランティアを募集しているので、閉鎖的な雰囲気もない。提供される料理だけでなく、店主の趣味や副業によって食堂に特色が出るのも面白い。地域の農家や事業者から食材の提供を受けており、フードロスの改善にも寄与している。さらにはweb3.0を活用した組織「熊谷共和国」と協働し、コミュニティ通貨による活動の幅も広げてきた。関わる多くの大人にも喜びがあるこのプロジェクトは、単なる子どもへの施しではないのだ。 「意識したのは『まず、大人も幸せにいてください』という言葉。これは川崎市の子ども権利条例に対して子どもが寄せたメッセージで、大人が幸せでなければ子どもも幸せにはなれないというものです。だから私も取り組みを楽しんでいるし、お仕着せの『福祉』をやっている感覚はまったくありません」