大谷も立証、最新研究からわかった「長眠」の効果 起きている間に学んだことを脳に定着させる
一般に「運動神経がいい」という言葉は運動能力が高い人のことを指しますが、脳科学の世界で「運動神経」は、脳からの指示を筋肉に伝える神経のことをいいます。 「浅いノンレム睡眠」は、まず脳が学んだ動きやちょっとしたコツをしっかりと脳内に定着させ、さらにその指示を素早く的確に筋肉へと伝える神経を成長させます。その結果、現実の練習で手に入れたり、夢の中のバーチャル練習でつかんだりしたスキルを、翌日以降も再現できる状態を作ってくれるわけです。
友人の新聞記者から、こんな話を聞いたことがあります。若手のスノーボード選手が最高難度の大技を習得しようとしていたときのこと。何カ月も練習していて、あと少しのところでできなかった大技に、彼は夢の中で初めて成功しました。目覚めて「なんだ、夢かぁ」とがっかりしていたら、翌朝から本当にその大技ができるようになっていたそうです。 まさに、「レム睡眠」中のバーチャルトレーニングの成果を、「浅いノンレム睡眠」が体に定着させた事例だと思います。
■1日をどういう気持ちで終わらせるか レム睡眠は筋肉が休んでいるものの、脳は活発に活動している状態とお伝えしました。この状態をうまく使えば、これまで「できない」とか「苦手だ」と思い込んでいたことを克服することも可能です。 たとえば、クモが苦手な人がいるとします。この人に、寝る直前まで「クモは安全な生き物だ」「クモは害虫を駆除するなど、世の中の役に立っている」「クモの側から人間に危害を加えてくることはない」といった情報を与え続けたうえで、眠りについてもらいます。
これを繰り返すうちに、クモを苦手とは感じなくなり、毛むくじゃらのクモを手に乗せられるようになるという例が実際に報告されています。これは、睡眠中に「クモは安全だ」という知識が定着し、脳内でクモを触るという行動を体験した結果だと考えられます。 このメカニズムは、何度チャレンジしても越えられない壁が現れたとき、それを乗り越えるために役立ちます。乗り越えるべき壁があるとき、意識すればするほどその壁が高く感じられてしまったという経験はありませんか。「越えられない」という経験を重ねるうちに、潜在意識の中で壁の存在感が増してしまっているという心理状態が考えられます。