Elephant Gymが語る、革新的なライブ演出の秘訣、ライブパフォーマンスの極意
台湾音楽シーンが日本で盛り上がって早数年。コロナ禍などを経てもなおその勢いは増しており、日本でもその存在を確固たるものとしつつある。台湾現地での音楽フェスやライブイベントも年々増えており、日本から参加する人も増えているだろう。 そんな盛り上がる現地のライブシーンを形作るものとして、台湾の舞台照明会社「禾火設計」がある。ライブを成功させる立役者として欠かせない舞台照明、しかし、台湾での舞台照明業界はまだ人材育成の環境が整っておらず、現場で鍛え上げるということが多い。そこで、多くの台湾アーティストの照明を手がける「禾火設計」は舞台照明に関するオンラインセッションをスタートした。ここでは、「禾火設計」の舞台照明家・「伍翔麟(以下、伍哥)」と、日本をはじめ世界を股にかけて活躍する3ピースマスロックバンド「大象體操(Elephant Gym)」から張凱翔(Gt.)と涂嘉欽(Dr.)が対談。ライブの中での舞台照明やもちろん、音楽性についても各々の見方を共有する貴重なセッションの内容をお送りする。 関連記事:Elephant Gymが語るtoeからの影響、世界への眼差し、アジア・台湾・日本のつながり 伍哥:よろしくお願いします。僕は普段からElephant Gymの楽曲を聴いていて、ステージの照明を担当したいと思っていたんです。たまたま知り合いがElephant Gymの2018年のワンマンライブ「水底 Underwater」を手掛けた舞台監督と知り合いだった縁でそのライブから担当させていただいたわけです。 凱翔(Gt.):はじめてバンドとして積極的に舞台照明のデザインをしてもらった時に出会いました。いつもドーム級のライブを手掛けている伍哥が我々の小さなライブをどう彩ってくれるのかとワクワクしました。やはり照明効果があると全然違いますね。 伍哥:嘉欽(Dr.)の叩くドラムは鮮やかな感じもあるから、これに照明を合わせるのはなかなか難しいなと思っていて。そこで舞台監督の劉柏君と話していて思ったことが「僕らがElephant Gymのメンバー間を繋ぐ架け橋なんだ」と。ここに影絵を投影したいとか、曲の表現についてお互いの意見を交換していました。 凱翔:ワンマンツアー「水底Underwater」の台北公演で、監督が“反射”という重要な概念を提案してくれました。アルバム『水底Underwater』自体が、全体を通して水と関係があるコンセプトで、ライブのVJなども水に関連していました。その一環でステージにLEDのバックボードを加えるかどうかなど色々考えたのですが、これらは監督に否定されたんです。その理由として監督が言ったのが、「伍哥を見つけたんだから、全部のリソースを照明に注いで、照明と鏡を使った面白い化学反応を引き起こせばいいじゃないか」ということでした。その結果、台北公演ではバンドメンバーの影絵を投影したり、ステージに置いた鏡に映った背後からメンバーの動きも見えていたと思います。僕らが伍哥と一緒に仕事をしたい理由は、この鏡を使った演出のように斬新なことが好きで。鏡の演出がきっかけで、ライブも比較的小さい会場でジャンルや業界を超えた色々なことを試すきっかけになったと思います。 伍哥:このライブは僕にとってもたくさん思い出があって。ライブの現場で何が起こるか分からない。色々なシミュレーションもできますが、鏡面の感覚を再現することはできなかったので、事前に色々なことを想像しつつ現場で作り上げる感じでしたね。僕は普段大きな会場での照明演出を手掛けることがほとんどですが、自分にとって印象深くて面白いのはやはり小さな会場での照明演出なんです。大きな会場では、1000個以上の照明を同時に使うかもしれないけど、小さな会場では50個程度の照明しか使わないんです。そんな制約がある中で、現場で試行錯誤している中で、鏡面の反射を使うことも思いついたんですよ。その後には、12時間のオンライン・ワールドツアー「12-HOUR DREAMS」もやりましたね。 凱翔:このライブはコロナ禍で実施したものでしたね。台湾時間の正午から夜中0時まで、12時間の内容はどれも重複しないように、例えば1時間はアメリカの番組「Audio Tree」を放送したり、その後は日本のフジロック出演時の映像と、世界の12の番組・チャンネルと協力して作り上げたイベントでした。その中で、台北の雲門劇場でのライブもプログラムにあったのですが、本来の舞台のほかに客席、舞台上部の狭い通路の3ステージを用意して面白かったです。 凱翔:当時の最新アルバムが『Dreams』というタイトルだったので、天井からベッドや椅子をぶら下げたりして面白かったです。舞台上部って、普段は舞台照明の人が照明を吊るす場所ですよね。 伍哥:そうです。普段はステージとして使っている場所に照明機材を置いて、普段照明機材を吊るす場所を照らすのが印象的でした。僕は全体の空間のニュアンスを担当していたんですが、本来のステージ上での照明より面白かったです。 Elephant Gym提供 凱翔:このライブで、雲門劇場は面白い使い方ができる場所だなと思って、その年の冬に同じ会場でリアルでもライブをして、皆に実際に会場へ足を運んでもらいました。この写真もご覧ください。伍哥の操る照明はストーリー性がありますね。舞台上で感じたのは、もちろん照明は、演者にとってはその雰囲気をより感じさせるもので。自分たちが想像していたような照明でないとしても、それもさらに面白いんですよ。これは、伍哥が曲を全く新しい角度で曲を解釈しているからですよね。 伍哥:ちょうど昨日、日本の知り合いの照明の方にもこの写真を見せたのですが、要するにライブというのは視覚・聴覚・体感を持つもので、光の数を抑えたり、その明るさを抑えたりすることで、現場の音楽をより感じることができるようにするのだと。この写真はそれを体現するのにぴったりだと思いました。 凱翔:他には小雨が降っているような照明も好きでした。怒りの情緒を表現していると理解しているのですが、この写真の照明のアイディアが大好きで。照明の明かりが少ない状況下でも様々なアイディアを使って全く新しい場景を作り出していますよね。 伍哥:それまでElephant Gymで一番照明を当てるのが難しい曲は「半個」だと思っていたんですが、そのアルバム『Dreams』収録の「巫女」は本当に難しかったです。自分にとって「巫女」は、一つの方向に向かって進んでいくストーリー性がある面白い曲だから、上手く照明を当てたいと思っていたけど本当に難しかった。 嘉欽:「巫女」は繰り返すフレーズがない曲で、頭から尾まで変化し続ける龍のような曲だから、難しいと思います。