Elephant Gymが語る、革新的なライブ演出の秘訣、ライブパフォーマンスの極意
台湾のライブハウスが日本のライブハウスから受けた影響
伍哥:ところでお二人は、舞台で照明を浴びる時にどう思っていますか? 真っ暗になったと思ったら急に照らされたりして、照明が眩しくないですか? 嘉欽:僕は気にならないですね。ドラマーにとって、照明に対する要求は多くないと思います。でも凱翔や凱婷(Ba.)を照らす際には、二人の複雑で細かな動きをする指板上がよく見えるようにしないといけないでしょうね。特に海外ツアーでは自分たちで照明器具を持って行くことも難しいですし、各地の会場にいる照明の方には事前に「演奏中に真っ暗にしないでほしい」と伝えることは忘れないようにしています。真っ暗にすると、二人の演奏ミスにつながるかもしれないので。 凱翔:台湾のライブハウスは日本に似ていますよね。日本のライブハウスには常駐で照明担当の人がいるところが多い印象です。照明の方たちも非常に仕事が細やかで、セットリストを真剣に眺めて、バンドからの照明に関する提案も真剣に叶えようとしてくれる。これは台湾のライブハウスも受けている影響だと思います。欧米のライブハウスでは提案を聞いてもらえないし、自分で照明機材を持って行けないなら恐らくステージ上は全灯か真っ暗の二択になるかも。照明とPAを一人で担当することになるでしょうし、セトリや指示が書いてある紙を持って行ってもちらっと見るだけです。メンバーが現場に到着する、もしくはその場でお金を渡してはじめて向こうも動くので、相手は事前準備もしていなくて、打ち合わせもあまりしてくれない。欧米だと、人気のバンド・ミュージシャンでないとほとんど相手にもしてくれないです。PAも事前に曲を聞いてなくて、ただ基本的な音のバランス感覚を有しているだけのような。 伍哥:欧米のツアーでは、常駐の照明家さんなどいたりしたんですか? 嘉欽:います。アムステルダムで出会った人は良かったですね。 凱翔:オランダの会場は仕事も細かくて気配りもしてくれて。ヨーロッパの中の日本みたいでした。照明の人も真剣にステージを見つめてくれていて。実は、台湾内外のライブハウスでライブをする時には伍哥にやってもらった照明の舞台の写真を見せて、「この曲で照明をこう調整してほしい」と写真を見せてそれを真似してもらったりもします。 嘉欽:欧米だと元々は酒屋かバーの会場が多くて、ステージはあるものの照明設備や吊り下げの設備なんかもなくて、ライブのための空間ではないですね。一方、日本の名古屋のライブハウスには、とても仕事が丁寧で素晴らしい照明の方がいました。 凱翔:長年その場所に構えている350人キャパの小さな会場だったんですけど、照明卓に行った時に彼女のメモを見つけたのですが、ご自分なりの曲の解釈をメモしてそれに合った雰囲気の照明を準備してくれていて。彼女はライブ全体を一つの物語にしようと考えていて、自分なりの当日のライブへの解釈も我々に話してくれて。僕らもステージ上でその物語通りの雰囲気を感じられました。 伍哥:それはすごいですね。 凱翔:次の日本ツアーでは一緒に回って照明をやってほしいとお願いしたのですが、彼女は「このライブハウスが自分にとっては家だからそこからは出ない、そのライブハウスで一つ一つのライブをしっかりやり遂げたい」と言っていて。照明の方ももっと複雑な照明を扱いたいとかそんなことを追求しているんじゃなくて、彼女のように自身にとって故郷のようなライブハウスで最も使いやすい照明を使用して、最も美しいと思えるライブを毎日毎回作り出している人もいるんでしょうね。この職人気質にはとても感動しました。 伍哥:我々みたいな舞台照明家は複雑な音楽のステージがあると興奮するし、同時に怖くもあるのですが、Elephant Gymの音楽のリズムはこれまた複雑ですね。複雑なElephant Gymの曲のリズムについていくのは大変である一方、Elephant Gymの表現は、例えば何拍目でこの演出に切り替えたい!と能動的に思わせてくれるんですよね。Elephant Gymは意図的に複雑な音楽を追求しているんでしょうか? 嘉欽:バンドを組んだ当初は、複雑で変わったリズムを前提に曲を作っていたんですが、最近はそうではないですね。あまり枠にはめ込まないようにしていて、自分たちが良い、面白い曲であればそれでいいと思っています。 凱翔:聞き心地がよい音楽を作るようになったものの、やはり5拍子などリズムが複雑なままなんです。すると、他のミュージシャンと共演すると、コラボの数日前にちょっと練習すれば大丈夫だと思っていても、実際に一緒に練習してみるとリズムが掴めないことが多くて。聞きやすいかもしれないけど、実は楽曲の中にたくさん盛り込んでいるものがあるわけです。 伍哥:リズムは完璧に覚えているんですか? 嘉欽:たくさん歌っていると次の歌詞が自然と出てくるようなもので、長くやっていると身体に染み込んでいます。でも慣れて覚えたからといってぼーっと演奏するとミスしてしまうので、ちゃんと集中して演奏しないといけませんね。かといって、過度に集中しすぎてしまうのもミスを招く気がしています。 伍哥:僕も自分が演出するステージで拍を数えるのはあまり良くないと思うんです。曲全体を聴きながら演出したくて、自分の数える拍に集中しすぎてしまうと逆に制約がかかって楽しくなくなってしまうんです。ライブが与えてくれる衝撃を感じられるように、色々なやり方を試してしまいます。リズムや拍の話だと、初めて一緒に仕事をした「水底 Underwater」のリハーサルの時、例えば「46553」など数字で演奏を始めることがありましたね。 Elephant Gym提供 嘉欽:曲によっては、拍の数を暗号にしているんです。例えば楽曲「夜洋風景」では、5拍、5拍、6拍、6拍のリズムの部分があるので、そこを「5566」と呼んでいます。 凱翔:照明担当の人にとっては聞き慣れない拍に合わせるのは大変ですよね。Elephant Gymは拍を面白いものだと思っていて。僕は前衛的な表現を大事にしています。小さな頃からクラシック、流行のポップス、そしてポストロックなど大好きでしたが、なぜ情感ばかりを求めてアイディア的な表現をしないのだろう?と思っていました。例えば、「金曲奨(中華圏のグラミー賞と称される音楽の式典)」で受賞した人の曲が、どれほど深く、繊細に感情を表現しているかと論じられますけど、僕は「情感を完全に逸脱した表現、もっと革新的なアイディアを主としたスタイルはないか?」と思っていて。そんなことを考えていた頃、大学生の頃に日本のバンド・Toeの曲を聞いたんです。なぜ彼らの音楽はこんなにも新鮮なのか? 実は彼らの曲はとても長いフレーズを5拍で演奏していて。リズム面の制約を打破すれば、他の人が聞いた時に何か異なる感覚があるんじゃないかと気づきました。また、自分自身も情感を表現するより、アイディアや発想を盛り込んだ表現が得意だと思っていたので、マスロックを演奏し始めたんです。 伍哥:以前、滅火器(Fire.Ex,台湾のバンド)が台北市・華山大草原で行ったライブで、はじめて入場時に流れていたElephant Gymの楽曲「青蛙」の映像を見たのが皆さんを意識したきっかけでした。アー写のイメージと違って、実際のライブでは皆さんの動きもアクティブで、見ていて開放的な気持ちになります。 凱翔:当時、僕は多くの流行の台湾華語のポップスが愛情を表現していることに一種の希望とともに失望も感じていて。バンドをやる人間にとって「もっと良くできる方法はないか」と考えることは、前向きな怒りでもあると思うんです。これはElephant Gymの音楽の中にある大きな感情の一つですが、これを言葉で表現するのは難しいことでもあって。なので、今のような(インストを主とする)バンドになったのだと思います。 嘉欽:情感は抽象的なものだから言葉で表そうとすると制約がかかると思っていて。ライブの一幕や楽曲を聞いているとき、歌詞じゃないものに感動することがありますけど、それこそが感動を表現できる最も美しい方法だと思うんです。 伍哥:僕自身も情感を表現するのが得意ではないと思っていて、歌詞や文字にあまり触れてこなかったんです。だからこそリズムを大事にする音楽が好きだし、英語の曲を聞いて歌詞の意味が分からなくても、メロディやリズムを覚えていて。だからこそ、台湾にもElephant Gymのような音楽があるんだと驚きました。