率直に問う 救急車「有料化」は、本当に“不適切利用”を撲滅できるのか?
医師の働き方と診察体制の変化
冒頭で紹介した総務省消防庁の報告書のまとめには、次のように書かれている。 「医療の「出口問題」は、救命後の医療として高齢者救急と関連して議論されているが、高齢者福祉施策の充実、療養環境の整備、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及といった動向とも関連するだろう」 つまり、救急搬送するにしても、患者を退院させることができず、ベッドも空いていなければ、搬送のしようがないという問題を示しているのだ(ACPについては後述する)。 医師の働き方改革の必要性は否定しないが、その結果として ・診察時間 ・診察体制 が縮小されれば、全体の搬送数に影響が出ることが懸念される。 有料化の即効性も怪しい。また、救急需要がひっ迫するなか、受け入れ病院の「病院機能」が縮小化することも懸念される。そこで、必要になるのが「緊急度判定」の議論である。
緊急度判定のリスクと課題
総務省消防庁からの報告のまとめの続きを紹介する。 「緊急度判定体系において、緊急度に応じた傷病者の適切な搬送先・サービス等が整備され、適切な連携体制と振り分け機能が構築されることは、消防機関にとって重要な意味 を持っている」 緊急度判定では、軽症、中等症、重症などの緊急度が決定される。しかし、筆者が救命救急士への取材や報告書から感じた最大の懸念は、緊急度判定の「リスク」である。 たとえ軽症であっても、重症化や訴訟を恐れて搬送せざるを得ない場合もある。しかも、電話の状況確認だけで患者の生命を搬送するか否かを判断するリスクを、通信指令員(119番担当)が負うのは不合理である。 誰かが責任を持って緊急度判定を判断する必要がある。筆者はその立場にないので伝えることはできないが、国民的議論が必要であることは間違いない。 ただし、緊急度判定の実態は各消防本部によって異なり、救急需要などを加味して実施されていることに留意する必要がある。