撮影を振り返る彼女たちの会話自体が、まさに“青春そのもの” 「水深ゼロメートルから」
「カラオケ行こ!」の山下敦弘監督が、第44回四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した徳島市立高等学校の同名舞台劇を、原作者・中田夢花の脚本で映画化した青春群像劇「水深ゼロメートルから」。オーディオコメンタリーやメイキング、サントラCDなど、特典満載のBlu-ray(初回限定生産)が10月23日(水)に発売される。
「アルプススタンドのはしの方」に続く、〈高校演劇リブート企画〉の第2弾
映画「水深ゼロメートルから」は、2020年に公開されスマッシュヒットを記録した「アルプススタンドのはしの方」(城定秀夫監督)に続く、〈高校演劇リブート企画〉の第2弾。執筆当時高校3年生だった原作者の中田夢花が、2021年に東京・下北沢の「劇」で上演された舞台版の脚本・脚色に引き続き、映画版の脚本も手掛けている。 「リンダ リンダ リンダ」で、高校最後の文化祭に向けてブルーハーツのコピーバンドを組む女子高生たちの奮闘をみずみずしく描いた山下監督が、令和の時代を生きる女子校生の生々しい会話劇を、どのように演出してみせるのか。青空バックに制服姿で立ち並ぶ登場人物たちを、ローアングルで捉えたポスタービジュアルも相まって、想像を掻き立てられる。 物語の舞台は、夏休み中の徳島南高校。高校2年生のココロ(濵尾咲綺)とミク(仲吉玲亜)は、体育教師の山本(さとうほなみ)から、特別補習としてプールの掃除を指示される。水が抜かれたプールの底には、野球部が練習するグラウンドから飛んできた砂が積もっており、とても二人だけで掃き切れる量ではない。同級生で水泳部部長のチヅル(清田みくり)と3年生で水泳部の元部長ユイ(花岡すみれ)も合流するが、ココロはプールサイドに座って手鏡に自分の顔を映してばかりで、掃除する素ぶりすら見せない。夏の日差しが降り注ぐ中、他愛ない話を始める4人だが、やがてそれぞれから悩みが溢れ出し、想いが交差していく。
「ジェンダーギャップ」を巡って交わされる、女子高生たちのリアルすぎる主張
思春期真っ只中の彼女たちの話の中心となるのは、「ジェンダーギャップ」と呼ばれる、男女の違いによって生じるあらゆる格差。第二次性徴を迎えた身体と心の変化に対する戸惑いや、高校生から見た社会の理不尽さ。一見正当な主張なようで、むしろ屁理屈に近い発言さえ飛び出すところも、高校演劇のリブート企画ならではの“青臭さ”であると言えるだろう。 戯曲を映画化するにあたっては、「水のないプール」というワンシチュエーションにおける会話劇という設定自体は同じでも、ロケーションやカメラアングルの影響により、立ち位置に変化が生まれることで、セリフのトーンやキャラクター設定などに微調整が施されている。オーディオコメンタリーに収録された中田のコメントによれば、原作と舞台と映画ではすべて結末が異なるそうだが、降りしきる雨の中、阿波踊りの構えを取るミクの顔のアップから暗転する映画版のラストはなんともドラマチック。エンディング曲の入り方も絶妙だ。沖田修一監督作品「子供はわかってあげない」で水泳部員のサクタさんを演じていた上白石萌歌が、adieu名義でコーラス参加していることにニヤリとしたのは、きっと筆者だけではないはずだ。