Saluteが語るUKガラージ、フレンチタッチ、ゲーム音楽、リナ・サワヤマと日本文化の融合
マンチェスターとの繋がり、”blackness”と政治性
―話は変わりますが、マンチェスターを現在の拠点にしている理由は何故ですか? サルート:子供の頃はずっとウィーンに住んでいて、イギリスに戻って最初に住んだのはブライトンだった。でも街を出たかった、変化がほしくてさ。ロンドンは高すぎてちょっと住めないし、それでマンチェスターにした。選んだ理由はいくつかあって、まず友達がたくさん住んでいたこと。ボンダックス(Bondax)もいたし、カルマ・キッドも当時は住んでいた。経済的にもやっていける街だった。引っ越してきてから気づいたのは、マンチェスターにはすばらしいミュージックシーンがあること。ロンドンに比べたら、もちろん小さな街だけど、すごく豊かな歴史があるんだ。ハシエンダみたいなクラブがあって、アンビエント、テクノ、ハウス、グライム……多様なシーンが同時に存在してる。ここに来て8~9年になるけど、今でもすごく楽しんでるよ。ラブリーな人がたくさんいて、マンチェスターは僕のホームだね。 ―私(hiwatt)の個人的な興味として、Mutualismであったり、Blackhaine、Rainy Miller、Space Afrikaのようなマンチェスターのアンダーグラウンドシーンに非常に興味があるのですが、彼らとの交流はありますか? サルート:個人的につながりがあるわけじゃないけど、2年前にSpace Afrikaのプレイを観たことがあるし、Rainy Miller、Blackhaineもそう。マンチェスターのコミュニティってすごく密接で、お互いをリスペクトしてるんだ。彼らの音楽は、インダストリアルで生っぽくて、まさに旧工業都市のマンチェスターを表している。彼らはUKシーンにおけるマンチェスターの重要性を説明するぴったりな例だね。 ―あなた自身、マンチェスターのシーンに属しているという認識はあるんでしょうか? サルート:そうだね、マンチェスターではハウス、テクノやもちろん、ガラージパーティーも多いし、古いベース・ミュージックのシーンもある。マンチェスターだけじゃなく、リーズやリバプールも含めてイングランド北部にはいろんなシーンがあって、クールなハウスやガレージのサウンドを作ってる才能に溢れたアーティストがたくさんいる。そのシーンの中にいると思ってるよ。 ―今作はNinja Tuneという老舗レーベルからのリリースですが、この出来事はあなたに変化をもたらしましたか? サルート:ようやくその時がきたっていう感じかな。アルバムをリリースするのは、活動を始めた当初からのゴールとしてあって、Ninja Tuneからリリースすることは、アーティストとしてのアイデンティティを確立することを意味しているし、本格的に取り組むタイミングが来たと感じた。音楽へのアプローチも変化してきて、アルバム制作に関して言えば、以前はシングルのことばかり考えていたけど、ここから数年間はインパクトのあるプロジェクトをやりたいと思うようになった。Ninja Tuneのようなレーベルは、僕がリスペクトする数々のアーティストをサポートしてきて、彼らと一緒なら自分が目指すべきアーティスト像に向かっていけると思ったんだ。 ―過去のインタビューで「自分はオーストリアで育ったので、ハウスやテクノは白人の音楽ジャンルだと思い込んでいた」と語っていたのも印象的です。ダンスミュージックと出会い、今自分で作っていることは、ご自身のアイデンティティにどのような影響を与えてきたと思いますか? サルート:ハウスやテクノの起源について語っている人はあまりいないよね。若い頃は黒人が作った音楽だと知らなくて、ハウスミュージックを作り始めてから歴史を勉強してようやく、シカゴやデトロイトのブラッククィアのコミュニティから誕生した音楽だってことを知った。その事実は僕のアイデンティティに誇りを持たせてくれたし、シーンとのつながりをより強く感じられるようになった。ホワイトウォッシュされて見えなくなっていたダンスシーンのルーツ、”blackness”の存在に気づかせてくれたんだ。この歴史を知らなかったら、やっぱり白人が作った音楽だと思っちゃうよ。ハウスやテクノは、いろんなコミュニティが混ざり合って生まれた音楽なんだ。その歴史は僕を励ましてくれたし、今こうやって一部を担えていることを誇りに思ってる。 ―先ほど「ハッピーな音楽を作りたい」とおっしゃっていましたが、一方で、ダンスミュージックは広い意味で、政治性も伴う音楽だと思います。あなた自身における音楽に政治性があるとすれば、それはどういったものですか? サルート:僕の場合、必ずしも音楽に政治性を持たせる必要はなくて、それよりもプラットフォームをどう使うかということに関心がある。不平等な問題について発言する場所を持っているなら、それを利用するのはすごく大切だと思うんだ。多くのアーティスト、特に影響力のあるアーティストは政治的な発言をしないよね。ダンスミュージックは抑圧から生まれた音楽で、ハウスやテクノのプロテストミュージックとしての精神を受け継ぎたいと思ってる。僕は恵まれたことに大きなプラットフォームを持つことができているからこそ、抑圧された境遇にいる人々に代わって声をあげることへの責任を感じている。不平等な状況があることに多くの人に目を向けてほしいし、状況を終わらせるためにも協力したいと思ってる。
hiwatt