Saluteが語るUKガラージ、フレンチタッチ、ゲーム音楽、リナ・サワヤマと日本文化の融合
『True Magic』で実践したクロスオーバー
―最新作の『True Magic』を聴いて、アートワークさながら、作品全体としてプレイステーションでレースゲームをプレイしているような感覚に陥りました。どのようなコンセプトで作られたのでしょうか? サルート:その感覚は、まさにコンセプトどおり! 全体のコンセプトはこうだ。君はレースに参加していて、いろんなステージにトライしている。そして、君が選んだ車の名前は”True Magic”ーー実は、このコンセプトは完成するまで定まってなかったんだ。エグゼクティブ・プロデューサーのカルマ・キッドとアルバムを聴いて、ビジュアル的にもサウンド的にも、すべてモーションとスピードに関連していることに気づいた。80年代の日本車が好きだったのもあって、そのアイディアを組み合わせて今のコンセプトに行き着いた。カラフルで明るくて、マリオカートで遊んでるような感覚を表現してるよ。 ―今、世の中が暗い時代とされるなかで、すごくアップリフティングな印象も受けました。そういった作品を意図的に作ろうと思った部分もありますか? サルート:意図的かどうかは分からない、結果的にそういった印象になっただけかな。僕の場合、悲しい出来事を曲にしたとしても、曲自体が悲しいテイストになったりはしなくて、どちらかというとユーフォリックなサウンドになると思う。それはやっぱり、ダンスミュージックやフレンチタッチといった、エナジェティックでアップリフティングな音楽が好きだから。80年代のソウルや日本のジャズ・フュージョンもそう。それらの音楽体験がダイレクトに作品に反映されている。もちろん、ダークでヘヴィなダンスミュージックも好きだけど、個人的にはアップリフティングの方が好きなんだよね、作るのもそっちの方が楽しい。 ―フレンチタッチを踏襲した「maybe it’s you」のような曲があります。あなたはスターダスト「Music Sounds Better With You」のリミックスをDJでの十八番にしてきた印象ですが、フレンチタッチはご自身やシーンにとって、今改めてホットなサウンドだと言えるでしょうか? サルート:今人気を集めてるシーンなのかどうかはわからないけど、フレンチタッチは、iPodに入れてずっと聴き続けてたくらい、初めてハマったハウスミュージックなんだ。僕の音楽的アイデンティティの大部分を占めてる。すごくシンプルだし、ハウスミュージックが苦手な人も楽しめる可能性が高いと思う。その身近さが好きだし、聴いた瞬間に惹きつけられるものがある。ハウスミュージックに詳しくなくても、聴いた時におもしろいと思わせる要素は、僕が音楽で表現したいことでもあって、このアルバムで特に意識していたことなんだ。 ―そのあたりの音楽性の原体験はどういったものですか? サルート:MTVでMVを見たりはしていたけど、基本的にはYouTubeだね。10~12歳の頃はクラブに行ったりもしないし、クラブカルチャーのことは何も知らなかった。当時知っていたのは、YouTubeで見つけたダフト・パンクくらいじゃないかな。ビジュアルにすごく惹かれたんだよね。それからディグりはじめて。ジャスティスとか、Rude Recordsをチェックしたりとか……基本的にはインターネットだね。 ―あなたが今のUKガラージ主体のスタイルとなったのは2021年頃からだと思いますが、UKガラージはまさにその頃から再びトレンドになったわけで、ムーブメントの最盛期にこの作品をリリースしたのは意義深いと思います。現時点であなたは、ここ数年のUKガラージムーブメントをどのように総括しますか? サルート:今と昔のUKガラージはまったく別物で、2021年以前のUKガラージは、どこか懐かしいものとして捉えられていた。クレイグ・デイヴィッドに代表される、初期のUKガラージだよね。90年代後半から2000年代前半にかけてこういったことをやり始めたのはアーマンド・ヴァン・ヘルデンだった。それから2018~2019年、コンダクタのKiwi Rekordsをきっかけに、違うジャンルの影響を受けながら再構築されて、UKガラージはノスタルジアの枠から抜け出したと思う。僕の作品もそう。ガラージのサウンドはありつつ、フレンチタッチとうまくクロスオーバーしている。このハイエネルギーな二つを組み合わせると、可能性は無限大だからね。今のUKガラージはすごくフレッシュで、ガラージにおもしろい影響を与えていると思う。 ―もちろん、現行のUKガラージ・ムーブメントの前にはディスクロージャーの活躍が大きかったわけですよね。彼らも最新作にゲスト参加していますが、あの二人はあなたにとってどんな存在なのでしょう? サルート:14~15歳の頃からのファンで、すごく影響を受けてきた。2013年、たしか『Settle』(1stアルバム)をリリースした後の頃にライブに行ったんだ。ダンスミュージックをキッズ世代に広めた第一人者で、彼らの影響はこのアルバムにも反映されてる。僕が『Settle』で体験したように、ハウスミュージックを聴き始めたばかりのティーンたちに、「ガラージっていいかも!」って『True Magic』を通して感じてもらえたら嬉しい。『Settle』は、ダンスとポップの絶妙なクロスオーバーを成し遂げた見事なアルバムで、10年後、僕のアルバムもそんな存在になっていたらいいなって願ってる。ちょうどディスクロージャーのガイ(・ローレンス)ともそう話したところだった。 ―『True Magic』には、日本とも縁のあるリナ・サワヤマが参加しています。昨年、あなたの公演に飛び入り参加していましたよね。彼女との交流とコラボ曲「saving flowers」について聞かせてください。 サルート:リナとは2015年に知り合った。彼女の1stアルバムのうちの1曲をプロダクションしたり、他の曲でも関わったことがあったから、彼女との付き合いは長くて。彼女がアイコニックなポップスターへと成長していく過程を近くで見てきた。今回のアルバム制作で、2番目に作り始めたのが「saving flowers」なんだ。去年の初旬のファーストセッションでインストゥルメンタルを作っていた時、曲の方向性、ボーカルのあり方がすごく鮮明に見えてきて、それを実現させるには誰がふさわしいか?と考えた時、僕と近いドラマティックな音楽を作っているリナが浮かんだ。彼女の声はすごくパワフルだし、日常を逸脱したポップスターであるリナの存在は、まさにパーフェクトだった。ブレイクダウンに彼女の声が入ったらこの曲はすばらしいものになるって確信したんだ。それで連絡したらオッケーしてくれて、すごく嬉しかったな。 ―日本からもう一人、なかむらみなみが参加しています。彼女が参加した経緯と「go!」という曲について教えてください。 サルート:去年、Itoaが彼女とコラボした曲「Oh No」を聴いたことがあって。彼女の声はすごくいいと思ったし、エレクトロ・プロダクションによくマッチしたフローだった。かなりタイトなラッパーだよね。僕のDJセットでも彼女の曲を使っていて、東京のCircusでプレイしたこともある。彼女の曲を使うようになったのと同時期にアルバム制作をやっていたこともあって、一緒にやらないか聞いてみようって思ったんだ。このアルバムでフィーチャリングしているのはポップでソウルフルなアーティストが多いから、UKダンスのコンテクストとは違うアプローチのアーティストを入れたらきっとおもしろくなると思ったんだよね。それで彼女にInstagramで連絡して、ビートを送ったら気に入ってくれて。ボーカルを入れて送り返してくれたんだけど、それがすごくよくてさ。ビートと彼女の声は絶妙なコントラストを生んでいて、珍しいコンビネーションになった。 ―今作はバンガー揃いですが、ご自身の中で最も気に入っている曲を教えてください。 サルート:お気に入りの曲はたびたび変わるんだけど、今はレア・センとの「softly」だね。彼女の声はすごく心地よくて、サウンドはエアリーで、すばらしいとしか言いようがない。アルバム全体はすごくドラマティックだけど、この曲のおかげで穏やかな瞬間が生まれた。全部トゥーマッチな感じにはしたくなかったから、この曲の存在は重要なんだ。こういったテイストの曲を作るのは初めてだったけど、納得できる作品が作れて嬉しいよ。あとは、みなみとの曲も気に入ってる。その2曲が今のお気に入りかな。