【漫画家に聞く】ガラスでできた「硝子姫」、冷たい体に熱が宿った理由はーー童話風のSNS漫画が美しい
とある偏屈な細工師がつくりあげたのは、硝子(ガラス)でできた世にも美しい女性の人形「硝子姫」。そんな彼女のさまざまな出会いを描いた『盗賊と硝子姫』が2024年7月にpixivで投稿された。 ガラスでできた「硝子姫」、冷たい体に熱が宿った理由はーー漫画『盗賊と硝子姫』 美しい反面、冷たさを感じる硝子姫は次第に孤独となっていく。しかし彼女の冷たさを求める人物もいてーー。涼やかで、たしかなぬくもりを感じる本作について、創作のきっかけなど、作者・勇魚聡さん(@isana3104)に話を聞いた。(あんどうまこと) ーー本作を創作したきっかけを教えてください。 勇魚聡:本作に登場するキャラクターは「海洋冒険もののゲームのパッケージデザインをつくる」といった学校の課題で考えたキャラでした。本作に登場する盗賊は課題では海賊という設定ではありましたが、当時から硝子姫は存在していました。 社会人になってから漫画を描くようになったのですが、お話をつくることに長い時間を有してしまい……。そのため漫画のネーム(下描き前に制作するラフ画)の練習として、当時のキャラクターたちをつかったお話を考えました。 ーー印象に残っているシーンは? 勇魚聡:本作を描いていた当時は猛暑の日々がつづいていたので、火照った盗賊に硝子姫が触るシーンは自分自身も涼しさを感じたいと思いながら描くことができました。 また硝子姫が子どもたちを助けるシーンも印象に残っています。当初、子どもたちは亡くなってしまう設定だったのですが、読んでいてつらい話になってしまうかと思い、最後にあたたかさを持った硝子姫と再会する結末にしました。 ーー硝子姫のビジュアル、透き通った美しさが印象に残っています。 勇魚聡:本作は最初に原稿用紙と鉛筆で下描きをしつつ、ペン入れなどではデジタルツールを用いて描いています。硝子姫などの細部には水彩ブラシをつかっています。一般的にはスクリーントーンを用いて色の濃淡を表現することが多いですが、今回は絵画に近しい描き方で創作をしました。 ーー本作では硝子姫や盗賊、はたまた細工師の孤独が描かれていたかと思います。 勇魚聡:誰かと誰かの関係を描くなかで、三者三様の孤独感を意識していました。自分もどちらかというと孤独に親しむタイプなのですが、誰かと一緒に話したり、作品を通じて他の人の考えとかに触れたりすることも素敵だと感じています。同じような感覚で過ごしている人に作品が刺さればと思いながら、孤独の中で通じ合えたときの、キラキラとした特別感を出せたらと思いながら硝子姫たちを描きました。 ーー通じ合えたことがわかる変化として、本作では温度が用いられていたかと思います。 勇魚聡:相手に触れ、相手の温度を感じることは、お互いに心を許しているからこそ感じることのできるものだと思います。そういった意味で温度は自分にとってドキドキするモチーフなので、本作では温度の存在がわかるよう描きました。 ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。 勇魚聡:小学生のときからお話づくりが好きで、学級新聞に4コマ漫画を描いたり、片道40分くらいの通学路を歩くなかで物語を想像していました。漫画を作品として完成させられるようになったのは社会人になってからです。 好きな作家さんが出展されていたことをきっかけにコミティア(一次創作物の即売会)へ足を運んだのですが、そこでは多くの人が自分の世界観を1冊の本にしている光景を目にして、自分も漫画を描いてみたいと思いました。 ーーそのあと、実際にコミティアに参加した感想は? 勇魚聡:自分の作品を見てもらえる人がいることが可視化され、それが漫画を描くやる気につながりました。自分の作品を発表しないよりも、発表したことで「次も頑張るぞ」という気持ちになり、良いローテーションになっていると感じます。 ーー漫画を描くことは大変なことも多いかと思います。 勇魚聡:そうですね。ただ漫画とは異なる仕事がしんどいときなどには、創作に逃げられるという感覚で漫画を描いているとも感じます。 とある占い師の方に「あなたは喋ることよりも、作品を描くことで言いたいことを言っている」と言われたことがありました。自分にとって創作することは「逃避」「発散」といった側面があるのかもしれません。 ーー今後の活動について教えてください。 勇魚聡:1本の超大作をつくりたいというよりも、「ふとしたときに読んだ、あの漫画が不思議と忘れられない」というような、誰かの心の隅に残り続ける作品を描きたいです。 現在は同人活動だけでなく商業活動もはじめており、読み切り漫画も公開されているので、その作品も見ていただけると嬉しいです。
あんどうまこと