韓国の非常戒厳、惨事に至らなかった背景は 兵士と市民の動きが奏功
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案の原因となった3日の「非常戒厳」の宣布は、ごく限られた軍幹部が計画を立案し、実行に移したことが判明している。だがそれが大惨事に至らなかった背景には、現場の兵士らの「サボタージュ」と、国会周辺に集まった市民らの動きがあった。 【写真まとめ】フェンス乗り越え…戒厳令、本会議場に向かう兵士ら 「北朝鮮に関する状況が極めて深刻だ。すぐに出動することになる」「銃器も使えるよう整備せよ」。3日夜、韓国軍の特殊部隊「707特殊任務団」に属する兵士は、こんな指令を受けた。その時の状況を大手紙「朝鮮日報」に明かした。 707特殊任務団は、北朝鮮の首脳部暗殺などを任務とする特殊部隊だ。すぐに出動命令が下り、この兵士は他の部隊員らとヘリコプターに乗り込んだ。 だがその際、他の部隊員から行き先が「国会議事堂」と知らされた。具体的にどのような任務に投入されるのか、聞かされないままだったという。 ヘリは国会の敷地内に着陸し、議事堂に向かった。「反逆者!」「尹錫悦の犬!」。国会入り口にバリケードを築き、部隊の進入の阻止を試みていた国会職員らは、兵士らに向かってこう叫んだという。 「国会議員を全員、本会議場から連れ出せ」。戒厳軍を事実上、指揮していた金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相は現場の司令官に対し、こう指示した。 この兵士は命令を受け、議事堂の窓ガラスを壊して中に突入した。だが、ちゅうちょがあった。「決意すれば10~15分程度で実行できたはずだ。でも、武装していない民間人を相手に特殊部隊が銃器まで手にして攻めるのはあまりにも過度だと思った」。他の兵士らも同じ思いだった。結局、部隊は議員の連行などには踏み切らなかった。 国会の現場に投入された別の兵士の周辺では「もう兵士を辞めたい」という声も出ているという。 ヘリで国会に突入した約230人とは別に、約50人はバスで国会の敷地外に到着した。警察が門を閉鎖していたため、隊員らは国会の周囲を取り囲む塀を乗り越えて敷地内に入ろうとした。 だがそこに「人間の鎖」が立ちはだかった。戒厳令に反発していた市民らが手をつないで立ち塞がり、兵士の行く手を阻んだのだ。兵士が所持していた銃を手でつかみ、奪おうとする人までいた。現場にいた兵士たちは朝鮮日報に、こう漏らした。「国民に申し訳ない。私たちを見て驚いた市民の表情を忘れることができない」「国に裏切られた」【ソウル福岡静哉】