「なんと小説の中にミルクボーイが出てくんのよ」 M-1王者を混乱させた「成瀬」のリアルすぎる漫才描写とは
2024年本屋大賞を受賞して話題となっている宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)。宮島さんのデビュー作でありながら、受賞した文学賞はトータルで14冠にも及ぶ。 【画像】他人の目を気にしない「成瀬」とコミュ力の高い「島崎」…対照的な二人の少女を見る この作品の主人公は、「成瀬あかり」という一風変わった中学生だ。地元唯一の百貨店が閉店するまでの1ヶ月毎日、ローカルニュースの中継に映り込むと宣言したかと思えば、唐突に幼なじみを巻き込んでM-1グランプリに挑戦、はたまた実験のために坊主頭にし、「200歳まで生きる」と堂々と宣言する少女である。小説家の三浦しをんさんをはじめ、辻村深月さん、漫画家の東村アキコさん、Aマッソ・加納愛子さんなど著名人のファンも多い作品だ。 作中には成瀬がM-1に挑戦するきっかけとして、実在のお笑い芸人が登場している。第15回M-1グランプリ王者のミルクボーイ(内海崇さん、駒場孝さん)だ。内海さんは「あまりにM-1のくだりがリアル」だったため若干混乱したのか、あることを検索してしまったという。小説に初登場して浮かれ気味のお二人による爆笑レビューをお届けしよう。
ミルクボーイ・評「成瀬に会えたんは運命やったんやな!」
駒場 今回ね、なんと僕らミルクボーイに小説の書評の依頼がやってきましてね。 内海 そうなんですよ。驚きましたねぇ。 駒場 なんか一風変わった青春小説ってことで、なんでだ? と思いながら読ませてもらったんですけども。僕はめちゃくちゃ本好きな父親の影響もあってね、普段から結構本は読むんですけど、最近、なかなか小説には手が伸びなかった。先輩の本読むのに忙しくて(笑)。なんですけど、久しぶりに読んだら、これが面白くて移動中の新幹線でずっと読んでました。 内海 僕は毎日一章ずつ寝る前に読みましたけど、いやぁ、本当に面白かった。主人公の成瀬、ここはあえて成瀬と呼ばせてもらいますけど、これはどういう発想から生まれたんだ! っていうようなキャラでね。一章読んだ時点で、もう成瀬に心つかまれてもうて。 駒場 たしかに衝撃的でしたね、成瀬さん。地元で親しまれていた西武百貨店が閉店になると聞けば毎日中継に映り込みに行ったり、突然漫才始めたりとか、本当にオリジナリティあふれた性格で。登場人物も多彩で、全然飽きない。 内海 しかもね、小説の中にね、なんとミルクボーイが出てくんのよ。 駒場 はいはい。小説にミルクボーイが出てくるのなんて、初めてなんちゃうかと思ってめちゃくちゃ嬉しかったですね。小説の中に普通にミルクボーイの漫才のネタが出てくるってことは、もうミルクボーイは一般名詞なんや! って思って。作者も「読者の皆さんも当然知ってますよね、ミルクボーイ」ってことで書いてくれはってるわけやから。 内海 そうそう。こんなテレビ見そうもない成瀬もミルクボーイ知ってはるんや! っていうのが嬉しかったですね。 駒場 成瀬ちゃうやろ、作者がやろ。 内海 いや、成瀬が。 駒場 成瀬が(笑)。でもテレビ見そうもないのに、ふたつめの話では成瀬は親友の島崎を巻き込んでゼゼカラってコンビ名でM-1に挑戦しはる。ゼゼカラの漫才のネタも出てくるけど、これが結構面白くて。将来的に三回戦くらいまではいけそうな気もする感じのね。作者も実は本当にM-1予選に出たことあるんちゃうかっていうくらい控え室の雰囲気とかもリアルで。そうそうこんな感じやったねと思いながら読みました。 内海 そうなのよ。アマチュアの出場者がチラチラプロのコンビを見てしまう感じとかね。 突然M-1挑戦を決める成瀬もぶっ飛んでるんだけど、それを見守る親友の島崎もね、自分は天才・成瀬あかりを見守る凡人だという割には、漫才コンビ作ったときは、自分が主導権を取って成瀬を引っ張っていく。コンビ名も島崎が考えたりしてね。そういう関係性も良かった。 駒場 三回戦までいけたら、ゼゼカラは絶対に祇園花月でエントリーすべきやな。漫才劇場は知られてないコンビは不利やから絶対、祇園花月にすべき! 内海 そこまで考えてたんか(笑)。でも僕もね、あまりにM-1のくだりがリアルなんで、待てよ、ひょっとしたらゼゼカラって本当にM-1出たことあるんちゃうかと思って、わざわざM-1のホームページの出場コンビ情報調べてしもて。これで出てたら怖いわーと思ったけど、さすがに出てこなかった(笑)。