<ラグビー>「エディーのために」で団結してオールブラックスに挑む!
過去、全敗のオールブラックスと対峙
やるのは選手―。 そう再認識せざるを得ない状況に、ラグビー日本代表はある。 世界最強のオールブラックスことニュージーランド代表とのゲームを前に、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の離脱が決まったのだから。 ジャパンは11月2日に東京・秩父宮ラグビー場でオールブラックスとぶつかり、その後は移動を含め22日間の欧州遠征に旅立つ。特にチームの遠征前のこの試合への意欲は高い。報道陣から「ここで負けたらラグビー人気に水を差すのでは」と問われた、倒れる前のエディー・ジョーンズHCは「なぜ、そんな考え方をするのですか?私は勝つことしか考えていません」と声を荒げていた。過去4戦全敗、直近のワールドカップ(W杯)ニュージーランド大会でも7-83(2011年9月16日・ハミルトン)と屈した艦隊への対策を、夏から秋にかけ3回あった短期合宿で入念に施していた。
病に倒れた指揮官 チームは非常事態
比較的タックル成功率に難のあるとされるオールブラックスのバックス陣を襲撃する。そのために、持ち前の多角的陣形を活かした攻めにアレンジを加える。先のW杯では真正面から押されたスクラムでは、元フランス代表のマルク・ダルマゾスポットコーチの教え通りに、終始低い姿勢を保ち、組むたびに押し込む方向を微妙に変える。相手が得意なキック捕球後の「アンストラクチャーからのアタック」には、味方が蹴った球を追いかけながらの素早い守備網形成で応じる…。 建てられた具体的なプランニングのもと、皆が意気込む状況下で指揮官が脳梗塞を患った。岩渕健輔ゼネラルマネージャーによれば、国内の合宿候補地を視察した10月15日に頭痛を訴えて自ら病院へ直行。16日の記者会見をキャンセルし、翌週には、腹心的存在のスコット・ワイズマンテルコーチがHC代行を務めることとなった。
エディHC不在で懸念される気持ちの弱さ
報せを受けた関係者は動揺した。なかでも核心を突いたのは、スクラムハーフ田中史朗だった。南半球最高峰リーグ・スーパー15のハイランダーズでプレーする28歳は、こう懸念したのだ。 「エディーが怖いからしっかりやっていた、という選手が何人か出てくるかもしれない。そこで(練習の雰囲気などに)甘さが出るのが…。少しずつなくなっているとは思うんですけど、『怒られるから…』というのが昔からの日本代表の弱さなので」 一般論としては、「大人が怒られるから云々とは、やや低レベルでは」との意見も出よう。しかし、指揮官が「能動的に自分を追い込める人を」との方針で選んだはずの現ジャパンにとっても、エディー・ジョーンズHCの存在感は強烈だった。 オーストラリア代表HCとして、2003年W杯オーストラリア大会で準優勝、南アフリカ代表アドバイザーとして2007年W杯で優勝、国内でもサントリー監督として2010年度からの2年間で3つのタイトルを獲得と、威光を得るには十分な存在なのだ。「情熱的であるべき」とのポリシーのもと、練習中も試合中も大声で叫ぶことが特徴的な人でもあった。 10月28日、大一番に向けた直前合宿が本格始動した。ワイズマンテルHC代行が囲み取材に対応後、広報担当者に促された岩渕GMが「今後、ワイズマンテルにはラグビーに集中させることもあるかもしれません。チームの取材は私や選手が対応するようにいたします。ご協力、お願いします」と頭を下げた。異例の対応。今が非常時であることの証だった。