ホスト売掛金問題や電通の過労自殺、東京五輪の汚職、大阪万博の建設費増額を彷彿させる事件を描いた物語【新年おすすめ本7冊】(レビュー)
月村了衛『半暮刻』(双葉社)は、社会問題になっているホストクラブの高額売掛金を思わせるエピソードから始まる。城有が結成したカタラグループは、経営する会員制クラブで女性に大金を使わせ風俗に沈めていた。カタラの新宿店に、児童養護施設出身で定時制高校中退の山科翔太、裕福な家庭に育ち有名大学に通う辻井海斗が参加する。城有の作ったマニュアルを信奉する二人はコンビを組んで成績を上げ、トップテンになった。やがて読書好きの女性と知り合い海外文学を読むことで自分の罪と向き合う翔太に対し、大手広告代理店に入社した海斗は、世界的なイベントの担当に抜擢され、部下の女性に平然とパワハラを行うなどカタラのマニュアルと勤務先の社訓を洗練させた手法で出世していく。月村は、ホストクラブの売掛金だけでなく、電通の過労自殺、先の東京五輪の汚職、現在進行形の大阪万博の建設費増額などを彷彿させる事件を描くことで、人間をモノとして扱う現代日本の社会構造とその奥に潜む闇を暴いてみせる。終盤には、カタラよりも効率的に金を集め、人間を使い捨てにし、裁かれないよう巧妙に立ち回る巨悪の存在が浮かび上がり、日本の真の問題点に気付かせてくれる。
同じく日本の病理に切り込んでいる天祢涼『少女が最後に見た蛍』(文藝春秋)は、神奈川県警の仲田蛍が活躍するシリーズの第四弾で初の連作集である。高校生がひったくりを目撃、クラスメイトが犯人と気付く「十七歳の目撃」は、証言を拒む理由に仲田が迫る。仲田が小学校の同級生の集まりで、ある男子が好きだった女子を当てる推理合戦を行う「初恋の彼は、あの日あのとき」は、恋愛話が思わぬ真相にリンクする意外性があった。「言の葉」は、SNSにおけるエコーチェンバーとフィルターバブルを謎解きにからめた秀作。ゲームのキャラクターに似ている仲田に会いたいという理由で私立校の生徒が万引きする「生活安全課における仲田先輩の日常」は、真の動機とその先に置かれた家族の問題に驚かされた。偶然、中学時代のいじめっ子と再会した仲田が、いじめられていた蛍子に何か起きたのかを推理していく表題作は、仲田が警察官になった理由も語られるので、シリーズの重要なポイントとなっていた。いずれの作品も伏線回収が見事で、探偵役の仲田は、子供のいじめ、虐待などは想像力の欠如が原因で起こると繰り返す。それだけに、大人が想像力を磨き、想像力の重要性を子供に伝えるには何が必要かを考えさせられる。 続いては、紫式部を主人公にしたNHKの大河ドラマ「光る君へ」の予習に使える作品を見ていきたい。