スタイリストの草分け・原由美子さん初の暮らしエッセイ【スタイルを見つける】家具の中で好きなのは椅子
座面高が低めでシンプルな椅子
日本製の椅子にもいいものがあるのは承知だが、なぜか私は木製のシンプルな西洋アンティークの椅子にずっと引かれ続けている。同じ椅子でそろえようという気もあまりなく、故意にバラバラにしたいわけでもないが、良いなと感じたものが適度に張り合いながら一緒に置かれているくらいが心地良い。きちんとそろった素晴らしいセッティングは映画の中や、品格あるホテルの食堂で見たり体験したりすればよいと思っているのかもしれない。 そんな私だったが、事務所で使っていた製図台のテーブルを自宅のリビングに持ち込むと決めるまでには、かなり迷いがあった。靴を脱いで上がる自宅のリビングに、大きなキャスターつきのテーブルはなじまないと思いこんでいたこともあり、あきらめかけてもいた。 考えに考えた結果、最初の事務所から20年は使い続けていた製図台のテーブルに愛着が強い自分を信じることにした。実際に持ち込んでみると、テーブル自体は思っていたほどの違和感はなかったが、座面の高いアンティークの椅子とは合わなかった。テーブルと椅子の高さのバランスは良いが、靴を脱いで腰かけて向き合う雰囲気ではなかったのだ。
アーコールを四脚
座面高が低めでシンプルな椅子はないかと探し始めた。そんな時に出会ったのが、アーコールの椅子だった。その時までは「アーコール」は私好みではないと思っていた。だが座面高が42㎝と低めなのは発見だった。座面の広さやゆるやかなカーヴも絶妙で座り心地が良い。製図台のテーブルとは調和しないのでは、という心配も無用だった。しばらくしてまた二脚見つけたので求めた。四脚そろいで置いても白木の軽やかさと背もたれのシンプルさがリズム感を生み、セットもの特有の重たさはない。 リビングも兼ねているので事務所としては雑多すぎる空間だが、このくらいの統一感は悪くないと今では思っている。以前からあるそれぞれの椅子も、互いに邪魔することなく静かに居てくれている。人数がふえた時は、無論、数の足しになる。なぜこんなに椅子にこだわるのか自分でも不思議だったが、思い当たることがひとつある。純日本式の住居で育ったのだが、友人の家に行くと玄関のそばに洋風の応接間があることも多かった時代だ。応接間にあるのは、応接セットと呼ばれるソファとひとり掛け椅子と決まっていた。遊びに行った子どもが通されることはない。両親に連れられて訪れると通されたり、大人になってからは友人どうしでも通されるようになったが、くつろげた記憶はない。 日本式の私の家の場合は、お客さまは玄関脇の座敷にお通しして、食事を出す場合もそこへ運ぶ。でも親戚や友人の場合は家族と同じ茶の間に通し、食事は台所に置かれたテーブルで。いつもの家族だけとは違うよそゆき気分も少しあるが、一味違う団らんのくつろぎ感は楽しい記憶になっている。 ひとり住まいだが、人が訪ねてくれたならあの茶の間のようなくつろぎ感が欲しいと、どこかで思っていたのだろう。今ふうに言うならリビングダイニングとなるわけだが、昔のように座ぶとんに座るのではなく椅子がいる。そろっていれば整然とするのは確かだが、そうしなくてもいいはず。というか、今まで愛用してきたものを生かしたいし、使いたい。なんといっても座り心地が良いと思えるものを選んできたのだから。