北朝鮮のロシア派兵 ウクライナ軍との戦闘地域投入は「朝ロ軍事同盟化のための人柱」
ウクライナ国防省は10月24日、北朝鮮兵の最初の部隊が、ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア南西部・クルスク州に到着したと発表した。北朝鮮がロシアへの派兵に踏み切った背景には、日米韓の「文化侵略」におびえる深刻な内情がある。同時に多数の死傷者を生む可能性がある今回の派兵は、北朝鮮に更なる混乱を呼び起こす「滅びの序曲」になるかもしれない。(牧野愛博=朝日新聞外交専門記者) 【動画】ロシア軍の装備を受け取る北朝鮮兵とみられる映像
同盟関係めぐり朝ロの微妙な違い
多数の専門家は派兵の動機として「ロシアによる経済支援や、近代的兵器の提供」を挙げる。確かに韓国も1960~1970年代の南ベトナム派兵の見返りに、米国から近代的装備の提供を受けた。果たしてそれだけだろうか。韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は10月23日の韓国国会への報告で、ロシアと北朝鮮が今年6月、包括的戦略パートナーシップ条約に署名した後、今回の事態が動き始めたと説明した。 同条約を巡っては、同盟だと明言する北朝鮮の金正恩総書記と、明言しないロシアのプーチン大統領との間で立場が微妙に食い違っていた。北朝鮮は今回の派兵により、条約が同盟を意味すると強調したいのだ。 同条約4条は、ロシアと北朝鮮のどちらが他国の侵略を受けた際、他方は「速やかに自国が保有する全ての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と明記している。金正恩氏は「我々はウクライナの侵略を受けたロシア・クルスク州に派兵した。これは、北朝鮮が侵略されたら、ロシアも派兵することを意味する」と言いたいのだ。
北朝鮮の「焦り」
北朝鮮は焦っている。今回の派兵は唐突な出来事ではない。すでに5年前から兆候が出ていた。 北朝鮮当局は市民が韓国や米国の文化に親しみ、最高指導者の指示に従わなくなる事態を深刻に捉えていた。2019年12月から立て続けに、韓国や欧米の文化を視聴したりまねしたりする行為を取り締まる法律を3本、制定した。効果はなかった。焦った北朝鮮は昨年末、平和統一政策を捨てて韓国を敵視する政策にかじを切った。今年に入り、韓国文化に親しんだ中学生30人が一度に処刑されるなど、公開処刑が増えている。敵視政策は公開処刑の根拠づくりだったと言える。 ただ、10月の最高人民会議(国会)では、金正恩氏が事前に予告したにもかかわらず、憲法に敵視政策を盛り込んだことを明言せず、改正した条文も公開しなかった。 北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「敵視政策は、金日成主席や金正日総書記が掲げた民族統一政策を否定する。統一を望んでいる大多数の北朝鮮住民の考えにも反するからだ」と語る。逆に言えば、北朝鮮当局が、住民の反発など内部の混乱を招いてでも、韓国や米国の「文化侵略」を防がなければならないと考えている証拠だと言える。