年収600万円、消費者金融の仕事は悪くなかったが、債務者が「衝撃の結末」を迎えることも...
「必ずきっちりと返済します」...その1カ月後
銀行で借りようにも審査は通りにくく時間がかかる。奨学金と家賃の支払いが迫っていたため、まずはアコムから借りて糊口をしのぐも、正社員の仕事が見つからず、著者の会社をはじめとする別の消費者金融からも借りてしまうことに......。 多重債務に陥る人の典型的なパターンだそうだが、気の毒なのはその原因が奨学金だったということだ。 そのため著者も心を動かされるが、しかし債務者の個人的な理由に振り回されるわけにはいかない。ドライさが求められる立場なので、「今回だけは特別に待つけど、ちゃんと返してもらわなければいけないんだから、そのことは覚えておいてね」と告げる。 ~~~ 「はい、もちろんです。ご迷惑をかけないように、必ずきっちりと返済します。それはお約束します」 これ以上、追及はできないと悟った私は電話を切った。伊東さんの境遇に思いを馳せ、ため息をつく。(118ページより) ~~~ ところがこの話は、悲しい結末を迎える。あるとき部署に届いた1通の封筒を開けたとき、著者は衝撃を受けることになった。 それは死亡診断書だった。 ~~~ 氏名:伊東孝則(男) 昭和×年2月26日 死亡したとき:平成×年8月10日 午後11時 死亡したところ:××市××町1-2-5 ××公園 死亡の原因:縊死(いし)......。 血の気が引いて、息が詰まった。つい1カ月ほど前に電話でやりとりをした、あの伊東さんだ。奨学金が多重債務の原因という境遇に同情心を抱いたが、電話を切って数分後にはもう忘れてしまっていた。 私は伊東さんに直接会ったことはなく、一度だけ電話で催促したにすぎない。ただ、あのときには間違いなく電話の向こう側に存在していた人だ。その人が自殺した。(123~124ページより) ~~~ 直接やりとりをした債務者の自殺を知ったのはそのときが初めてだったそうだが、なんとも身につまされる話である。だが、奨学金の返済が社会問題化している現代においては、もしかしたら珍しい話ではないのかもしれない。 さて、こうしたエピソードはありつつも、基本的には債務者とのやりとりがコミカルに描写されていくのが本書の特徴だ。最終的に意外な、そして悲しい結末につながっていくことにもなる。 その詳細については、ここでは触れないでおこう。 印南敦史(作家、書評家)