【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】2008年、誕生したばかりの日産GT-Rに乗って徳大寺有恒は何を思ったか? 「まさか、こんなクルマに乗れるとは!」
第1級のレーシング・カーと肩を並べるクルマだ!
ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回取り上げるのは、2008年2月号に掲載された日産GT-Rのリポート。誕生したばかりの新型GT-Rに試乗したのは今は亡き徳大寺有恒さんだ。日本車のワクをぶち破る超ド級スーパー・スポーツを、国民的自動車評論家はどう見たのか? 1955年のトヨタ・クラウン以来、乗ったクルマは数知れず、買ったクルマは両手でも足りない、自動車評論家生活30年以上の徳大寺有恒が山形自動車道~東北自動車道を劇走した記録。 【写真3枚】今は亡き徳大寺有恒さんが日産GT-Rに試乗した貴重な記録記事と3枚のスチール写真がこれだ! ◆ファンジオより速い! 速いクルマの経験は十指に余る。GT‐Rはその中でも、最速のひとつである。0-100km/hを3.6秒でこなし、そのままガス・ペダルを踏み続ければ、300km/h超のスピードに達する。 GT‐Rの目的は、あらゆるところで速く走りたい、ということである。そのために、トランスアクスル方式が採用され、R32GT‐R以来の4WDシステムを持つ。 3.8リッターV6ツインターボというエンジンのスペックは全体のパッケージから必然とされたものであろう。開発陣はエンジンを軽く、コンパクトにしたいと考えたに違いない。 V6、3.8リッターツインターボが生み出す480馬力という最高出力、60kgmという最大トルクは強烈である。0-100km/h、3.6秒というのはすさまじい加速だ。1740kgのGT‐Rを300km/h以上のスピードに短時間で持ち上げるのだ。むろん、ここにはレーシング・カーで得たノウハウとテクノロジーが投入されている。ブリヂストン、あるいはダンロップの果たした役割も忘れてはなるまい。 開発にはドイツのニュルブルクリンク・サーキットが一役買っている。1周20km少々のマウンテン・サーキットは長いストレートと、あらゆるタイプのカーブが続く。 現在、このコースはグランプリには使われていないが、ポルシェをはじめとするドイツのメーカーはここでクルマを開発している。 旧い話で恐縮だが、その昔、フォアン・マニュエル・ファンジオという、5度もF1のワールド・チャンピオンになったアルゼンチン出身のドライバーがいた。ちょうど50年前の1957年にここで開かれたF1の予選タイムが9分25秒であった。旧いとはいえF1である。マシンはマゼラーティ250F。ファンジオはこのマゼラーティで5度目のチャンピオンとなる。 GT‐Rはニュルブルクリンク7分38秒を記録しているという。50年後の現代のクルマとはいえ、GT‐Rは市販車で、777万円というお金で誰でも買えるのだ。 同時にGT‐Rは婦人の買い物用のアシとしても十分使えるという。デュアル・クラッチ・トランスミッションは、ステアリングの根元に設けられたパドルによる素早いシフトを可能にするとともに、オートマチックとしても使える。だから、GT‐Rの運転席は2ペダルである。今年68歳になったジジイの私でも容易にドライブできるのだ。GT‐Rの特徴は2ペダルのイージー・ドライブも可能であることだ。 この背反こそが魅力なのである。 昔からよく言われるジーキルとハイドなのである。日本の厳しい道路交通法を守ってジーキルでいられるのだが、地の利と時の利を得られれば、GT‐Rはたちまちハイドと化す。 ◆デカンショ、デカンショで ブレーキはこのような超高速車にとって特に重要だが、ブレンボのモノブロック・キャリパーを使っている。一般の道では極めてよいタッチで効いてくれるし、サーキットでは、友人・清水和夫のパッセンジャー・シートで経験したが、不平を言う様子がなかった。 GT‐Rは相当すごい。ロード・カーとしてはこのクルマ以上のクルマはあまりなかろう。 GT‐Rは分別のある男のクルマである。定価777万円というプライス・タグは、このクルマが解り、使いこなせる男(もちろん女性でもいいのだが)にとっては望外の安さであろう。 GT‐Rは現代のクルマである。しかも日本の。だから日本でも十分使える。デパートへの買い物のアシとしてもいける。しかし、誰もそんなことのためにこのクルマは買うまい。このクルマは古いカテゴリーのGTカーなのである。ウィークエンドはサーキットへ遊びに行くだろう。 サーキットに着き、ライト類にテーピングし、サーキットを何ラップか走り、再び高速道路を走って帰る。それがこのクルマを所有する目的となり、喜びとなる。ツクバでもフジでもいい。目の前が開けたらガス・ペダルを床まで踏んでやる。さしものフジの長いストレートもすぐ終わり、あなたは迫り来る第1コーナーの手前で強いブレーキをかけねばならぬだろう。 ときおりはスズカで楽しみたい。このクルマはあのニュルブルクリンクを7分30秒台で走れるのだから。 では、ウィーク・ポイントはいかなるものであるか。ひとつはスタイルだろう。極めて武骨である。しかし、見方を変えると極めて日本的だとも思える。時速300km/hのスーパーカーとして、鬼面人を驚かす、というものでもない。 4座クーペというボディ形式もこの種のクルマとしては珍しい。この国ではスポーツカーが認知されているとはいいがたいから、このほうがむしろ受け入れられやすいのかもしれない。演出のへたさかげん。それは言うまい。それが日本の、日産のクルマなのである。 たしかに性能はスーパーカーだ。スピードだけでものを言えば、第1級のレーシング・カーと肩を並べる。スポーツカー好きのクルマであることはむろんだが、現代のレーシング・カーでもある。 それが777万円で買え、ジジイの私が東京の渋滞のなか、買い物に行くのに使える。こいつはわれわれの知っている、これまでのスーパーカーとは違う。私はこのクルマを見ると、弊衣破帽のバンカラを思い出す。“デカンショ、デカンショで半年暮らす、あとの半年は寝て暮らす、よーいよーい、デッカンショ!” そんなクルマなのである、GT‐Rは。 文=徳大寺有恒 写真=小林俊樹/阿部昌也 (ENGINE2008年2月号)
ENGINE編集部
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