ネパール地震 帰国の医師「まだ十分医療が届いてない」
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ネパール地震で先遣隊として現地で医療支援を行ってきた日本赤十字社の医師が11日、帰国会見を行った。アクセスの悪い山岳地帯が被災地のため、十分に医療が行き届いていない現地の状況を報告し、長期的支援の必要性を訴えた。 【動画】ネパール地震 日本赤十字社派遣の医師が緊急報告会見
山岳地帯でアクセス阻まれ
4月25日に首都カトマンズなどを含むネパール中部を襲った大地震(M7.8)は、9日現在で7700人を超す死者を出すなど甚大な被害を出している。ネパールはレンガ造りの建物が多く、その多くが倒壊した。また山岳国家のため、がけ崩れで道路が寸断され、山間部の被害調査や支援活動が阻まれている。そのため、被害の全容はまだ完全に把握できておらず、被害状況はさらに拡大することが予想されている。 カトマンズの国際空港は非常に小さい空港なので、救援のための人員や物資がそこで渋滞し、迅速な支援が難しい状態だという。先遣隊として現地で医療支援を行った医師の光森健二さん(大阪赤十字病院)は、「骨折したままの人もいる。患者さんが寝泊まりするところは、ほとんどない状態」と十分に医療が行き届かない現地の厳しい現状を語った。
診療所まで4時間歩く患者も
光森さんが訪れたのは、今回の地震で3000人以上が死亡した最大の被災地であるシンデュルパルチョール郡。同郡のメラムチ村の診療所の支援を要請されたが、現地の医師は2人、看護師らが18人で対応能力の限界を超えている状態だという。現地では、まず現地医師が診療し、手がかかりそうな処置や手術、レントゲン検査などを日赤スタッフが担当した。 診療所に来る患者は、発生直後は半数が外傷で1日100人くらいだったが、いまでは50人前後まで減ってきた。重篤な患者は首都カトマンズの病院への移送を薦めるが、行くのを嫌がる患者も多いという。帰りの交通費や治療代を心配するためだ。
光森さんは、今回の医療支援でもっとも困難なのは「患者との物理的な距離」だと語る。患者の中には、診療所まで4時間も歩かなければならない場所から通う人もいる。足が折れているのに引きずった状態で来院する人もいる。しかし治療を1回で終えられず、途中で帰らざるをえない場合もある。2日後に再度来てと言っても、そんな状態では通院の強制もできず、一度治療に来てそのまま来ない人もいる。医師としては非常につらい状況だ。 家が遠くて帰れないが治療を続ける必要がある人のために簡易テントを設置したが、多数の患者の入院を想定した施設ではないので、スペース的にも人員、設備的にも限界があるという。
雨季を迎え感染症も懸念
光森さんは「アクセスが悪い山岳地域には、援助物資や医療支援が十分に届いていないところがまだたくさん残っている」と警鐘を鳴らす。ネパールでは今後、雨季を迎えるため、衛生状態が悪くなって肺炎や腸炎などの感染症の増大が懸念される。そして「住民は住むところもなく家畜も失われてしまった。生活の再建が大変」と語り、長期的に支援していくことが必要だと訴えた。 光森さんは日本赤十字社の先遣隊として4月26日にネパール入りし、5月10日に帰国。日赤からは計15人の医師らから成る基礎保健担当の緊急対応ユニット(ERU)が現地に派遣されており、第一班は6月9日まで活動する。