相次ぐTOB、IT業界再編へ 部門切り出し分社化も
TOB(株式公開買い付け)によるIT業界の再編が活発化している。NECは、上場子会社のNECネッツエスアイの完全子会社化を発表。住友商事グループの中核IT企業であるSCSKは、システム開発のネットワンシステムズの全株を取得し、将来的には合併も視野に入れる。KDDIは、サイバーセキュリティーを手掛けるラックの傘下入りを目指す。一方、三菱電機はIT関連部門を分社化し、子会社3社と統合して新会社を立ち上げる。各社の狙いを探った。 【関連写真】TOBの狙いを話すNECの森田社長 「ネッツエスアイの完全子会社化で、コア事業を進める会社は100%の形でグループに取り込むことができる。機能集中によりグループとしての力をより高めていきたい」。NECの森田隆之社長兼CEOは今月6日、電波新聞社などの共同インタビューで今回のTOBの意義をこう説明した。 ネッツエスアイは、ネットワーク事業やインフラ工事・保守などを手がけ、拡大する地方自治体のデジタル標準化の工事対応を担ってきた。一方で、NEC本体でも自治体のデジタル化を推進する部門があり「NEC本体とネッツエスアイにリソースが分散し、効率的な対応ができてなかった」(森田社長)という。 12月11日まで約2355億円を投じてTOBを行い、51.36%の出資比率から全株を取得する予定。その後は、同じく完全子会社で自治体や中堅・中小企業向けのITサービスなどを提供するNECネクサソリューションズを含めた事業再編を行う。DX(デジタルトランスフォーメーション)需要が本格化する全国の自治体や中堅・中小企業向けビジネスの強化を図る狙いだ。 将来的な経営統合を見据えて手を結んだのがSCSKとネットワンシステムズだ。SCSKが総額約3600億円でネットワンの全株を取得する。 両社のエンジニアリングサービスの融合により、ネットワークやセキュリティー、クラウド、アプリケーションの提供までを一体化したデジタルサービスの展開に向け、事業構造の転換を図る。SCSKは「経営の理念や企業文化などの親和性が非常に高く、事業が相互補完関係にある。単なる資本・業務提携を大きく上回るシナジー(相乗効果)が期待できる」としている。 通信大手のKDDIは、人工知能(AI)の急速な普及に伴い、対策が急務になっているサイバーセキュリティーの強化に向け、2007年に資本提携したラックを完全子会社化する。取得額は約246億円。 両社は、需要の変化に合わせた新サービスの共同開発やクラウドの拡大などセキュリティー領域で連携を深めてきた。完全子会社後は、ラックのセキュリティーサービスとKDDIのネットワークサービスを一体化し、コンサルティングから監視・運用まで一貫したサービス展開を目指す。 ◆分社化に活路 一方、三菱電機はグループ再編に活路を求める。グループ内のDXとIT、セキュリティーの企画・推進部門を分社化。情報システム・サービス事業子会社の三菱電機インフォメーションシステムズと三菱電機インフォメーションネットワーク、三菱電機ITソリューションズの3社と統合する。25年4月、資本金12億5000万円、従業員数6000人の規模で、IT戦略の推進に向けた新会社を設立する。 三菱がグループ再編に乗り出したのは、生成AIをはじめ続々と登場するデジタル技術活用の成否が企業の競争力に直結するからだ。同社が掲げる「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革を加速させることを狙う。新会社では、結集したDX・ITのノウハウを活用し、スケールメリットを生かした人材獲得AIやデータサイエンス技術の強化に取り組む。 DXの進展に伴い企業のIT投資が拡大する一方で、グローバル企業の参入やスタートアップ企業の台頭により、IT業界の競争は激しさを増している。より大きな規模と競争力を備えるため、TOBによる業界再編の動きは今後も続きそうだ。
電波新聞社 報道本部