『鬼滅の刃』孤高の剣士・時透無一郎はなぜ“笑顔”になれたのか アニメだけに描かれた「重要シーン」
「無一郎の日輪刀」の作り方を遺したのは、先代の刀鍛冶・鉄井戸で、それを鉄穴森が継承している。無一郎は彼らの思いを受けとめ、鉄穴森が打ったこの刀こそが「自分のための日輪刀」なのだと実感するようになる。 「ああ しっくりくる」(時透無一郎/14巻・第119話) 柱稽古4話目のアニオリの最大の見どころは、「刀鍛冶の鉄穴森が、無一郎の邸宅に常駐する」シーンが描かれた点だろう。ひとりで孤独に鍛錬してきた無一郎は、これまでは「他者の助力」を認識できていなかった。しかし、アニメ版「柱稽古編」では、無一郎がみずから鉄穴森に手助けを求めるシーンが挿入された。これは大きな変化である。 ■無一郎が「欲したもの」 刀鍛冶の里には、のちに炭治郎の刀になる、戦闘用カラクリ人形「縁壱零式」の中に隠されていた「良質な日輪刀」があった。この「縁壱零式」の刀が、極めて価値の高いものであることは、小鉄、鋼鐵塚、鉄穴森の様子から明らかであったにもかかわらず、無一郎はそれに執着する様子は一切見せなかった。小鉄の祖先が守り、炭治郎の刀鍛冶である鋼鐵塚が研いだ日輪刀は、上弦の肆・半天狗との戦闘中に、無一郎の手によって、炭治郎へ渡った。 この後、ストーリーが進んで物語の後半になると、「縁壱零式」の刀の継承者として、無一郎が含まれていたであろうことを思わせるシーンがあるのだが、無一郎はその後もこの刀を求めることはなかった。無一郎にとって「唯一無二の日輪刀」は、鉄井戸が託し、鉄穴森が造り上げた日輪刀だけなのだ。無一郎はここから後、鉄井戸・鉄穴森の日輪刀をその手に握り続け、“生涯”それを手放すことはない。
■無一郎が「取り戻した」笑顔 今は亡き、無一郎の双子の兄・有一郎は、弟の「才覚」の可能性について、このように語ったことがあった。 「無一郎の…無は…… “無限”の“無”なんだ お前は 自分ではない誰かのために 無限の力を出せる 選ばれた人間なんだ」(時透有一郎/14巻・第118話) つまり、兄を亡くしてから、たったひとりで孤独に戦っていた「これまでの無一郎」は、「真の無一郎」ではなかったのだ。鬼を滅殺するための合理性や優位性ではなく、誰かのために「鬼滅の刃」を振るうことが、無一郎の本当の強さを解放する。 刀鍛冶の里の戦いで、無一郎は次第に「本当の自分」を取り戻していく。そのためには、命を賭して自分を救ってくれた人たちとの「記憶」や「思い出」が必要だった。剣技を知らぬ兄が身をていして、無一郎をかばってくれたこと。死にゆく間際まで自分を気にかけてくれていた刀鍛冶の鉄井戸。そして、戦うこともできない幼い小鉄が、上弦の鬼に捕縛されていた自分に「呼吸」を分けてくれた、あの経験――。 時透兄弟を襲った、鬼の襲撃以降、心が封印されていた無一郎は、涙を取り戻し、笑顔になれるようになる。