原田知世×川谷絵音 相思相愛の二人が語る「優美」なコラボレーションの背景
「カトレア」の制作背景、二人のチャレンジ
─レコーディングは、今回も「ヴァイオレット」と同じく礼賛のメンバーですね(休日課長、木下哲、GOTO、えつこ)。 川谷:僕は新しい人とやりたいというより、安心してできるメンバーとやりたいんです。意思疎通がスムーズですし、みんな勝手を知る仲間なので。ただ今回は、通称「カトレア事件」と僕たちが呼んでいる出来事があって(笑)。 原田:え、なんですか?(笑) 川谷:みんな腕がいいので基本的にはスムーズに進むんですが、レコーディングの前日に僕がたっぷり寝てきちゃって、妙に冴えて細かいところが気になってしまったんです。普段なら1~2回で終わるレコーディングなんですが、今回は本当に100テイクはやったんじゃないかっていうくらい深夜までずっとやっていて、メンバーも「これはカトレア事件だ」って(笑)。最終的には納得できるものが録れたので、よかったですけどね。 ─原田さんは、川谷さんのチームの演奏についてどんな印象をお持ちですか? 原田:川谷さんに楽曲をいただくときは、歌詞もメロディもサウンドの世界観もすべてが明確になっている状態なんです。ゴローさんの場合は、どちらかというとギリギリなことが多くて(笑)。時には歌入れの当日にメロディを作詞家の方と詰めたり、歌っている段階では完成形がゴローさんの頭の中にしかなくて、私自身よくわからないまま歌ったりしていることもあるんですよね。川谷さんの曲は全体像がはっきり見えているので、その中で自分の歌がどうあるべきかをじっくり考えられる。そういう意味で、アプローチの仕方が全然違うと感じます。 映画でも、自分の役について、台本がしっかりある中で演じるのと、その場で監督と作りながら演じていくのとでは、また違う面白さがあるのと一緒かもしれない。 ─なるほど。ちなみに川谷さんは、「ヴァイオレット」をindigo la Endでもセルフカバーされていますよね。以前のインタビューでも「お気に入りの曲」とおっしゃっていましたが、そのお気に入りの理由について改めてお聞きしたいです。 川谷:indigo la Endで曲を作るとなると、ああいう優しい曲って僕はなかなか作れないんですよ。何かこう、取っかかりが見つからなくて、自分で弾き語りしてみても「違うかな」と感じてしまうんです。でも知世さんの歌で完成した「ヴァイオレット」を聴いたとき、「あ、いい曲だな」と素直に思えたし、自分でも歌いたくなったんです。 それでindigo la Endでセルフカバーしたんですけど、ちょうどレコーディング中に僕がコロナにかかって2、3週間くらい声が出なくなってしまったんです。やっと声が出せるようになったタイミングで歌録りをしたのが「ヴァイオレット」で大変でしたが、その時にしか出せない声でレコーディングすることができたおかげで、かえって特別な曲になったんですよね。 原田:そんな経緯があったのですね。 ─今回の「カトレア」の仕上がりについて、川谷さんはどう感じられましたか? 川谷:本当に冬にぴったりの曲になったなと思います。低音域での知世さんの声が素晴らしくて。音域が広めなので、いろいろな知世さんの声が楽しめる、そういうチャレンジ的な要素も自分の中にあって、それがうまくまとまり、すごく良い曲になったなと思います。アルバム全体の中でもいいアクセントになったんじゃないかと思いますし、自分で言うのもなんですが、満足していますね。 原田:「カトレア」は「ヴァイオレット」と比べるとストーリーも見えやすく、シンプルな言葉でまとめられていますよね。もし私がもっと若い頃にこの曲を聴いていたら、失恋したときに友達とカラオケで泣きながら歌いたくなるだろうなって(笑)。そんな気持ちを呼び起こされました。 最後の「結構です」って歌うところも、言い切ってしまっている感じがすごく楽しかったです(笑)。あと、一番が終わって間奏に入るキーボードのフレーズ(口ずさむ)もすごく好きですね。なんていうか、主人公の女性を少し離れた視点で見ているような気がします。そこで彼女が愛おしく感じられるというか、アレンジと歌詞が一体となって生まれた解釈ですけど、何度聴いてもとてもいいなと思います。 川谷:ありがとうございます。この曲の歌詞は本当に苦労して、どんなテーマにするかも含めて迷いながら書いていました。でも、あまり考えすぎるとわからなくなってきて、結局、何も決めずに1行目から物語のように書き始めました。サビも最初は全然思いついていなくて、普段はメロディから考えることが多いんですが、今回は歌詞とメロディが同時に浮かんできたので、そういう時って好きな曲になることが多いんですよね。 原田:「カトレア」っていうタイトルは、いつ決めたんですか? 最初から決めていたんでしょうか。 川谷:いや、歌詞と曲が全部できた後に決めました。 原田:そうだったんですね。タイトル、いつもすごく素敵だなと思っているんです。 川谷:今回は「ヴァイオレット」に続けて、また花の名前にしたいなと思っていました。少し続きのような感じにしたいという思いもあって。 原田:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の中にカトレアさんっていうキャラクターが出てきますよね。それは関係ないんですか? 川谷:それは関係なくて、「あ、そういえば」くらいの感じでしたね(笑)。 ─原田さんは、前回のインタビューでボイストレーナーをつけて、ミックスボイスなども練習されているとおっしゃっていましたが、それは今回のレコーディングでも活かされた部分はありますか? 原田:喉の使い方に関して、声をたくさん出すというよりも、あまり疲れさせずに効率よく使う方法を教わりました。私よりかなり若い先生で、新しい方法を導入しながら指導してくださるんです。今回のレコーディングでもずっと付き添ってもらって、ブースに入って一緒に聴きながら、「この歌をこう歌いたいんだけど、そのためにはどうしたらいいか」など、細かいアドバイスをいただきました。 今は、自分の声をどう使うかを研究中といった感じで、それがとても楽しくて。「ヴァイオレット」も、ライブなどで歌っているうちに自分の癖が付きそうだったのですが、川谷さんが歌っているのを聴いて「あ、ここはこういう風に歌えばいいんだな」と気づかされました。自分が苦手と思っていた部分も、意外とさらっと歌われていて、「そんなに難しく考える必要はないんだ」と思えて、すごく参考になりましたね。