<わたしたちと音楽 Vol.39>ゆっきゅん 心を守ってくれた音楽で、次は自分が世界を広げる
ちょっと自由な男の子として活動することで枠組みを広げる
――例えば、好きな音楽やアイドルと出会って、自分自身が本当に大切にしたいもの、曲げたくないものが見つかったら、既存の枠組みも少しずつ気にならなくなるということもあるのでしょうか。 ゆっきゅん:そうですね。あと、そうやって好きなものや曲げたくないものを見つけたときに、別にそれを人に表明したり発信したりしなくてもいいと思うんです。「私はこれが好きなんだ」ってわざわざ人に言わなくても、「自分が本当に思っているのはこれなんだ」と心の中だけでも自分に嘘をつかない状態でいられたら、壊れないで生きられるのかなって気がしています。そうやって自分の気持ちを肯定するために、自分にはDIVAたちが孤独を歌い上げる音楽を聴くことが必要だったんだと思うんです。何かを急に変えたり、できるようになることってなかなかないじゃないですか。生まれ変わったりしない。たとえば「可愛い服だけ着たい」と思ってもワードローブをガラッと変えるのにはお金も時間もかかる、最低2年くらい。そういう、変わりたいと願っていたとき、好きな音楽に心を守られてきた感覚がありますね。 ――そう考えると、社会は、個人が心の中で大切に思っているものを大切にできるように設計されていない感じもしているんです。例えばこの企画もチャート上に男女のジェンダーギャップがあることをきっかけに始まったものですが、ジェンダーを公表していない人を包括できていないんじゃないかと考えてしまいますし、"女性”アーティストとして紹介している人たちのジェンダーアイデンティティについて確認しているわけでもないですし。ゆっきゅんさんが2017年にファイナリストになった【ミスiD】オーディションも、女性の敬称である“ミス”が冠されているわけですが、今のこの社会構造についてはどう思っていらっしゃいますか。 ゆっきゅん:もう7年前ですが、【ミスiD】を受けたのは審査員が好きな表現者ばかりだったからで、自分としては社会構造への異議を唱えるものではありませんでした。社会の構造に対しては、疲れることばかりですが、“ちょっと自由な男の子”として何をやってもいいんだというのを自分の体で表現することで、自分は枠組みの幅を広げようとしているつもりです。何をやっても社会的なこととして捉えられる時もありますが、自分の現状としてはまだ、社会構造のことよりも、個人のことばかり考えているような感覚がありますね。