「小説と映像、溶け合う境界」新庄 耕×ピエール瀧 『地面師たち アノニマス』刊行記念対談
映像に関して僕にできることがあるとしたら一切口を出さないことだと思ったんです
新庄 今回のドラマは、瀧さんの相棒である、石野卓球 ( いしのたっきゅうさんの劇伴もめちゃくちゃ良かったです。卓球さんが劇伴を作ったのって、初めてなんですよね。 瀧 そうなんです。僕とやっている電気グルーヴでは、彼はコンポーザーの面が強いんですが、DJとしての顔もあるんですよね。DJって現場に行って、お客さんたちの場の雰囲気、お客さんたちのノリを見ながら、次はこの曲だろうというものを提出していく。おそらくそれと同じ感覚で、こういうシーンだったりこういうムードの時はこれっしょという音楽を当てられるんでしょうね。彼が作るトラックは何千曲と聴いてきましたけど、やっぱりすげえなぁと思いましたね。 新庄 これは大根さんが企画書で書かれていたことなんですが、日本の映画やドラマは音楽、劇伴がもう一つ足りないところがあるから、絶対になんとかしたい、と。どういう感じになるのかなと思ったら、こういうことだったのかと。映像って総合芸術なんだな、と改めて感じました。何か一つでも欠けていたら、今の結果にはならなかったかもしれません。 瀧 全七話を、何度も観ている人が多いらしいんですよ。こういう話って手口とネタが分かっちゃったら、二回目を観ることってあんまりないと思うんですけど、それに堪 ( たえる作品なんでしょうね。 新庄 自分の小説が映像化されるのは、初めての経験だったんです。大根さんから一話、二話の脚本を頂いた時に、プロデューサーさんからは「気になるところがあれば言ってください」と言われていたんですが、トーンはだいぶ変わっているし、話や登場人物の設定も細かく変わっていて、気になると言えば全部が気になる。原作者である自分の感覚通りにするなら、全部変えるしかないんです。そんなことは不可能だし、それがいいとも思えない。映像に関して僕にできることがあるとしたら、大根さんの感覚にお任せして、一切口を出さないことだと思ったんです。その判断が良かった、とちょっと自分を褒めてあげたい気がしています(笑)。 「小説すばる」2024年12月号転載
集英社オンライン