能力者の生まれる町、人喰いの村…ディズニープラスで見られる変わった村や街、集めました
ディズニープラス「スター」で独占配信中のドラマシリーズ「七夕の国」。原作は「寄生獣」「ヒストリエ」の岩明均が発表した怪奇ミステリー漫画で、ある超能力を持った青年が日本全土を混乱させる陰謀に巻き込まれていく姿を描く。劇中では超能力と深い関わりのある場所として、丸神の里と呼ばれる閉鎖的な雰囲気漂う町が登場する。ディズニープラスではほかにも、変わった村や町が登場する作品がそろっているので、「七夕の国」とあわせて観たい配信作品を紹介したい。 【写真を見る】かつて“人喰いの生贄にされかけた、左半分の顔のない男を高杉真宙が演じる…(「ガンニバル」) ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■古来より超能力の秘密を守ってきた丸神の里が舞台の「七夕の国」 まずは最新作の「七夕の国」から。主人公は大学4年生の南丸洋二ことナン丸(細田佳央太)。彼はどこにでもいる平凡な大学4年生だが、意識を集中させることで紙や空き缶などの対象物に小さな丸い穴をあける超能力を持っていた。超能力者と言えば聞こえはいいが、穴の大きさは鉛筆の芯ほどで、大学の「新技能開拓研究会」というサークルで披露する以外の使い道はなく、ろくに就職活動をしないまま怠惰な日々を送っている。 そんなある日、ナン丸は同じ大学の民俗学教授、丸神正美(三上博史)の呼び出しを受けて研究室を訪ねるが、当の教授はある調査で東北にある“丸神の里”と呼ばれる丸川町へ出かけたまま行方不明になっていた。さらに、丸神ゼミの講師、江見早百合(木竜麻生)ら研究室のメンバーから、丸神教授もナン丸と同じような超能力を持っていること、丸神家と南丸家のルーツが丸川町にあることを聞かされる。江見やゼミ生の多賀谷守(濱田龍臣)、桜木知子(西畑澪花)が教授を捜しに丸川町へ行くというので、ナン丸もこれに同行することに。そのころ、丸川町では土地開発をめぐって住民による反対運動が起こっており、建設会社の社長が頭部を抉られ、右手も失った状態で殺害されるという奇妙な事件が発生していた…。 村社会のような小さなコミュニティには独自のルールがあり、時にそれは法律や一般的な常識、道徳観が通用しないことも。丸川町の人々も表向きは人のよさそうな顔をしているが、丸神教授についてなにか知っていそうなのに知らぬ存ぜぬの一点張りで、江見たちには非協力的だ。ところが、ナン丸が丸神の里のかつての領主の子孫にあたり、能力も有していることを知ると、手のひら返しでいっきに歓迎ムードに。どうやら、この土地では古来より主君と家臣とが強い主従関係で結ばれていて、その名残が現在まで染みついているという。それでも、丸神教授やなぜか“6月”に開催される「七夕祭り」など町の秘密については、いっさい教えてくれようとはしない。 丸神の里に伝わる能力は、“窓を開く”と“窓の外に手が届く”の2つがあり、町の喫茶店で働く東丸幸子(藤野涼子)によると、前者は口で説明するのが難しく、悪夢を見るようなものだという。一方の手が届く能力はあらゆる物を丸く削り取る能力で、ナン丸の超能力もこれに該当する。 手が届く能力が使えるのはナン丸や丸神教授以外では、幸子の兄である東丸高志(上杉柊平)、丸神家の元神官、丸神頼之(山田孝之)がいる。この能力は“窓の外”と呼ばれる黒い奇妙な球体を発現させ、これを物や液体にぶつけることで球体と同じだけの容積を消失させることができる。当初のナン丸は小さな穴しか開けることができなかったが、第1話の冒頭、戦国時代の丸神の里に攻め入ってきた大軍を、領民たちがこの能力をもって撃退し、攻撃を受けた武士たちの身体に丸く抉った痕がいくつも残されていたように、本来の球体は手のひらサイズぐらい。また、この能力は使い続けることで体にも影響があるようで、高志の額には赤い宝石のような物体が浮き出ている。頼之の場合はもっと顕著で、両手の小指の隣にもう一本の指が生え、目や口、耳も巨大化してエイリアンのような容姿になっていた。 閉鎖的な丸川町の人々の態度からもわかるように、本来これらの能力は門外不出。しかし、町との関わりを絶った高志は超能力開発の詐欺セミナーに協力する。町の神官も務めていた頼之も政界のフィクサーのような権力者とつながって講演中の議員を殺害したほか、巨大な球体によって都庁の半分を消し、東京の街にも巨大なクレーターを作るといった単独行動を見せていた。日本全土が混乱に陥るなか、こんな大事をやってのけるのは頼之しかいないとわかっていても、町の住人は彼を擁護する態度を取っている。外の社会には目を向けず、なによりも町の安定を重視する性質からか、はたまた領主の家系で強い能力を持った者への畏怖からか。理由は様々だが一般常識が通用しない内向き志向が、頼之のような怪物を生みだしてしまったのかもしれない。現在7話まで配信中の本作。回を重ねるごとに拍車をかけていく頼之の凶行、果たしてその目的は?丸川町に隠された秘密を明かすことができるのか?そして里の者ではないナン丸だからこそ、しきたりに捉われずに導きだす“答え”に注目してほしい。 ■“人喰い”の因習があり、怪物が巣食う供花村の狂気に迫る「ガンニバル」 「七夕の国」と同じく日本の地方社会に渦巻く因習を描いているのが「ガンニバル」。しかもこちらが題材にしているのは“人喰い”というかなり血生臭いものになっている。山間にある村「供花村(くげむら)」の駐在として、妻と娘を連れて赴任してきた警察官の阿川大悟(柳楽優弥)。村人からも歓迎されるなか、地元の名士である後藤家の当主、銀(倍賞美津子)の死体が森で発見される。遺体に喰い荒らされた痕があることから周囲はクマによる仕業と判断するが、大悟は歯形が人間のものであるように感じ独自の捜査を開始する。加えて、前任の駐在員、狩野(矢柴俊博)の娘すみれ(北香那)と接触し、彼女から「後藤家は人を喰っている」と聞かされたことから、大悟の疑念はより確実なものとなっていく…。 「七夕の国」の温厚そうな丸川町の人々に対し、供花村の、特に後藤家の関係者は荒くれ者ぞろい。屋敷に侵入した大悟を数人で取り組むと銃を突きつけて威嚇。ここは全員が大悟に返り討ちにされてしまうが、その内の一人で過激派の睦夫(酒向芳)は執念深く、車で走行中の大悟をゴミ収集車で襲撃。トンネル内で銃撃戦を繰り広げるなどその行動は常軌を逸していた。 さらに、この村には“あの人”と呼ばれ、恐れられているおよそ人とは思えない長身の老人が潜んでおり、村人たちはこの怪物を匿い、定期的に子どもを生贄として捧げていることも発覚。その異常さは、子どものころに生贄にされながらも逃げだすことに成功した寺山京介(高杉真宙)という、顔の左半分が喰われた生き証人によって証明される。シーズン2制作も発表され、“あの人”の正体、いまだ全容が明かされていない供花村の闇が明かされるのが待ち遠しい、沼落ち必至の作品となっている。 ■たくましくもユニークな人々が暮らす仮設住宅を描く「季節のない街」 外の社会とは距離を置くコミュニティには、様々な背景を持ち、少し常識外れな住人が集まってくるようだ。“ナニ”という大災害で被災した人々が身を寄せる仮設住宅が舞台の「季節のない街」は、そんなワケありな人々の悲喜交々が描かれる。“ナニ”から12年が経つが、現在も仮設住宅には18世帯が暮らしていた。主人公の半助(池松壮亮)は、この仮設住宅での住民たちの暮らしを報告するだけで最大1万円の報酬がもらえると聞き、軽い気持ちで入居する。自身もナニで家族や家を失い、生きる目標もなかった半助だが、ギリギリの生活のなかでたくましく生きる住人たちを観察するうちに、彼らのことが好きになっていく。 本作の特徴は仮設住宅に暮らすユニークな住人たち。母親と、父親が異なる妹と弟を支えるため懸命に働くタツヤ(仲野太賀)に、寡黙で表情変化に乏しいカツ子(三浦透子)に恋するコンビニ店員のオカベ(渡辺大知)、電車が好きで仮設住宅の敷地内を線路に見立てて、「どですかでん、どですかでん」と言いながら走り回る六ちゃん(濱田岳)。日雇い労働者の増田(増子直純)と河口(荒川良々)はいつもべろんべろんに酔っぱらっているだけでなく、お互いの自宅や妻が入れ替わっても気にする素振りも見せない。 こんな狭いコミュニティだとそれぞれの生活は周囲に筒抜けで、誰々の部屋に女性が入っていった、どこどこの奥さんが出ていったといったゴシップはすぐに広まってしまう。一方で、女児誘拐犯に間違われた六ちゃんが警察に連行されそうになると住民総出で止めようとしたり、ホームレスの親子が家代わりにしていたあばら屋が撤去された際には、その理不尽さに憤ったりしていた。人間関係の面倒くささがあるなかで、助け合いながら生きる人情の厚さがあるのも小さなコミュニティならではなのかもしれない。 ■どこか違和感が拭えないシットコムの世界「ワンダヴィジョン」 最後に紹介するのは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のドラマシリーズ「ワンダヴィジョン」。主人公は強力なテレキネシスにバリア、マインドコントロールを使うことができるアベンジャーズの1人、ワンダ・マキシモフ(エリザベス・オルセン)。「計算サービス社」に務める夫のヴィジョン(ポール・ベタニー)と共にウエストビュー郊外の街に引っ越してきた彼女が、日々の家事や少しお節介なご近所さんとの交流に悪戦苦闘しながら“普通”の人間の暮らしに溶け込もうとする。 エピソードごとに作品の雰囲気がガラッと変わる本作。シチュエーション・コメディ、所謂シットコムな世界なのは共通しているものの、「奥さまは魔女」「フルハウス」といった1960年代、70年代、80年代、90年代それぞれでヒットしたホームドラマのように日々の営みが展開されていく。そのなかでワンダが妊娠したり、双子が生まれたり、子育てに奮闘したりと、ありふれた日常が映しだされている。 一方で、“普通”とは思えないことも。いくらシットコムとはいえ町の外がまったく登場しないのは不自然で、普段は気さくに振る舞っているご近所さんや計算サービス社の上司、同僚たちが、突然謎めいた言動をしたり、動きが止まったり、なにかから逃げようとする不可解な現象も発生。そういった場面に出くわすとワンダやヴィジョンも戸惑ってしまうが、そもそも『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)におけるサノスとの決戦の末にヴィジョンは死亡したはず。だとすれば、ここにいるヴィジョンは何者なのか?一見平和そうに見える町だが、どこか違和感を覚えずにはいられない…。マーベル・スタジオ初のドラマシリーズとして注目を集めた本作は、回を追うごとに伏線を回収しながら、街の真実が明らかとなる脚本の秀逸さが高い評価を集めておりMCUファンもそうでない人も、楽しめる一作だろう。 本作に登場した魔女、アガサ・ハークネス(キャスリン・ハーン)を主人公とした最新ドラマシリーズ「アガサ・オール・アロング」も9月19日(木)より配信予定なので、あわせてチェックしてみては? 小さなコミュニティで暮らし、その場所独自のルール、因習に縛られた住人たちの姿も描く「七夕の国」をはじめとするこれらの作品たち。どれだけ国が法律やルールを整備したとしても、結局、人にとって重要なのは自身が生活するエリアにいかにうまく溶け込み、周囲との良好な関係値を築いていけるか、なのかもしれない。SNSなどのツールが発達する一方、リアルな生活圏内での人間関係が希薄となりがちないまの時代だからこそ、鑑賞してみてほしい。 文/平尾嘉浩