『モンスター』を完走した趣里のポテンシャル 人間を怪物に変えるものとは?
狂言回しのポジションを演じきったジェシー
亮子と粒来の狙いは勝訴、すなわち相手を打ち負かすことではなく、実質的に負けを認めさせることだった。亮子たちのしつこい攻撃がボディーブローのように効き、ついに天秤が揺らぐ。最後に証言台に立った涼香(小島藤子)は、登場するべくしてした感があった。内部告発に等しい証言によって、帝東電機側はついに世間に向けて謝罪した。……のだが、悪玉を成敗して終わりとならないのが『モンスター』の奥深さである。 「本当の悪魔とは巨大に膨れあがった時の民意」とは『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)の台詞である。ここぞとばかりにうっぷんを叩きつける村人とサカミクリーンの従業員。逃げきりを図った帝東電機の重役は青ざめる。そこで亮子が発した言葉が強烈だった。豊かさとは何かと問う亮子は、幸せになりたい人々の内なる欲望を照射する。 最終話のタイトルが「求める者たちへ」だったのは示唆的だ。各話に共通する“モンスター”の正体は人間の欲望といえる。訴状には請求の趣旨を記載する。それは金銭や物、行為などさまざまだが、求めるものがなければ裁判は始まらない。何かを求めることで人間は動くし、この世界は回っているのだが、そもそも何がしたくて、何のためにするかを忘れていないだろうか。目的を忘れてゲーム化した社会は、欲望に乗り回されているだけで、何が自分にとっての幸せかわからなければ、永遠に満たされない。泣いてしまった亮子は、答えのないゲームを悲しんでいるように見えた。 全11話を通じて趣里は神波亮子を実体のある存在として視聴者の前に差し出した。余白のあるキャラクターに動きと表情を与えた趣里は、『ブギウギ』(NHK総合)に続く主演作の本作を経てなお演者として底知れないポテンシャルを感じさせる。『相棒』(テレビ朝日系)の杉下右京(水谷豊)へのオマージュなど遊び心もふんだんにあった。今作の相棒に当たる杉浦を演じたジェシーは、当初は主人公が振り回すロープの円周で回っていたのが、最終的に物語の中心で名うての俳優陣を前に堂々と狂言回しのポジションを演じきった。個人的にパラリーガルの洋輔(宇野祥平)の再挑戦する姿が胸に響いた。
石河コウヘイ