「台湾統一」めぐる“情報戦” 中国が仕掛ける「攻撃」巧妙な手口【バンキシャ!】
日テレNEWS NNN
政治目標として「台湾の統一」を掲げる習近平国家主席。「武力行使を放棄することは決してない」と強調しています。一方、台湾は年明けに総統選挙を迎えます。中国の軍事的脅威にさらされると同時に、より巧妙な攻撃が社会の様々な場面で仕掛けられていました。(真相報道バンキシャ!) 今年7月。バンキシャ!は台湾南部の海岸へ。砂浜を歩くと…。 ジャーナリスト・宮崎紀秀さん 「ミサイルだ」 そこにはミサイルが入ったケース。さらに奥には…。 ジャーナリスト・宮崎紀秀さん 「ここまでしか行けないということなんですが、ミサイルを撃つ台ですかね」 すると…。 ジャーナリスト・宮崎紀秀さん 「(ミサイルを)撃った、撃った」 台湾軍による軍事演習が行われていた。発射されたのは地対空ミサイル。中国軍の上陸を食い止めるシナリオだ。 台湾統一を目指す「中国」。中国にのみ込まれたくない「台湾」。 中国は武力行使も辞さないという立場で、強大な軍事力を見せつけている。そして同時に、一般市民をターゲットにした情報戦が進められていた。台湾の子どもたちをも巻き込むひそかな工作。その実態とは──。 今年9月。バンキシャ!が出会ったのは、台北市内に住む会社員、27歳の楊欣慈(よう・きんじ)さん。楊さんが見せてくれたのは…。 楊欣慈さん 「この本です」 「いま、台湾は中国の脅威にさらされているので、この本を読もうと思いました」 この本は、“圧倒的な戦力”をもつという中国軍のイメージは、実は“事実に基づかない”ものだと指摘している。 楊さんは、今年2月に大手書店のオンラインショップで購入。すると3か月後、不審な電話を受けた。 楊欣慈さん 「突然の電話でした。書店の人だと名乗っていました」 「市場調査で、この本を買った人の感想を聞きたい」 「この本の内容が不適切でよくないものだからしっかり調査をしたいと言われました」 こんな電話を受けたのは初めてのこと。楊さんは、やりとりを録音した。 書店員を名乗る男 「もしもし、こんにちは」 楊欣慈さん 「こんにちは」 書店員を名乗る男 「今大丈夫ですか?」 「本を読んでみて、どんな感想でしたか?」 楊欣慈さん 「特に意見はない。今の情勢について読んでみたかっただけ」 「あなたは書店の人といいましたよね?」 書店員を名乗る男 「そうです」 楊欣慈さん 「本当ですか?」 書店員を名乗る男 「安心して。安心して。」 その後、会話は台湾と中国との関係に。その内容から楊さんは、相手が“台湾人”ではなく、“中国人”だと感じたという。そこで、証拠を残そうと動画撮影に切り替えた。 書店員を名乗る男 「我々は、みな中国人。台湾人なんていない」 楊欣慈さん 「はあ?私が生まれ育ったのは台湾」 書店員を名乗る男 「それでも中国人だよ」 楊欣慈さん 「なに言っているの?私は台湾で生まれ育ったから台湾人」 書店員を名乗る男 「私の考えでは、台湾はもともと中国の一部。台湾で生まれ育った人でも中国人」 「台湾の若者は皆、平和統一を望んでいる」 楊さんの周りには、中国との統一を望む若者はいない。相手の発言は、まるで“中国政府”の言い分のようだと思った。 さらに、中国が決して許さない台湾独立について尋ねると…。 楊欣慈さん 「独立という選択肢は?」 書店員と名乗る男 「独立はありえない。絶対ありえない」 「台湾が独立するなら、隣の大国(中国)が攻めてきて、簡単に統一されてしまう。占領されてしまう」 中国からの情報工作に違いないと思った楊さん。 楊欣慈さん 「書店の人だといっているけど、そんなことあり得ない。もうウソつかないでよ。こんなアンケート電話なんてない。笑っちゃう」 書店員を名乗る男 「これは個人的に聞いただけ。時間があったので、聞いてみた」 相手の電話番号を見ると、「+28」から始まる番号。発信元は台湾ではなかった。 楊欣慈さん 「台湾にはこんな番号はない。あなたは台湾にいないでしょ?」 書店員を名乗る男 「スパイと勘違いしているのか?」 その後、楊さんは男とのやりとりをSNSに公開。対中国政策を担当する台湾政府の調査にも協力した。 楊欣慈さん 「個人情報を入手し、買った物や立場を把握して洗脳しようとしてきた」 「情報戦に警戒するよう呼びかけは知っていたが、実際に私の身に起きるなんて」 ◇ 中国がしかける情報戦に小学生まで利用されていた。台北市内にある敦化国民小学校。巻き込まれたのは、この学校の合唱団だった。 ある日、合唱団に入っている児童の保護者から、台北市の議員の簡舒培(かん・じょばい)市議に連絡があったという。 簡舒培市議 「保護者たちは非常に驚いていた。なぜ子どもが(情報戦の)道具として利用されたのか」 合唱団が文化交流のつもりで協力した歌が、予想外のことに利用されていた。それが、この合唱団が歌う映像──。 「私の言うことをあなたはすべて分かる」 「あなたはすべて聞き取れる」 「みんな同じ祖先の名前をもっている」 中国と台湾の統一をたたえる歌を合唱する、中国の子どもたち。そして、そこにあの台湾の合唱団の子どもたちも…。 「私たちは同じ歌を歌っている」 「どうやったら勝てるのだろうかと」 「台湾統一」を称賛する、中国の番組の中で放送されたのだ。保護者たちは、このような形で使われることは知らされていなかったという。 簡舒培市議 「中国がブローカーを通じ校長を利用し、子どもを政治や統一の道具にしました」 「中国はいたるところで情報戦を仕掛けています。みんなに知ってもらいたい」 この学校に通う児童の親は…。 保護者 「これでは中国側に協力したことになってしまう。もし私が歌の内容を知っていれば、やめさせた」 保護者 「中国で放送されてしまって、親としては嫌な気持ちです」 バンキシャ!がさらに目撃したのは、より巧妙な情報戦。 中国が台湾に仕掛ける情報戦。フェイクニュースを検証する団体・台湾ファクトチェックセンターが見せてくれたのは、今年9月、SNSで拡散したという映像だ。そこに映っていたのは、大量の戦車。 “中国軍が台湾の向かいにある福州(ふくしゅう)に戦車を集結させている映像”として拡散。 台湾ファクトチェックセンター・陳培煌(ちん・ばいこう)記者 「河北省の都市・石家荘(せっかそう)と突き止めた。鉄道や大きな駐車場、高い建物があるからです」 実際に撮影された場所は台湾対岸の福州ではなく、台湾から約1600キロ離れた石家荘。映像の戦車は台湾を目指したものではなく、中国国内を移動しているだけだったという。 そして、中国軍の兵士の目の前に台湾の山が見える写真。この写真は中国の国営メディア「新華社」のもので、海外メディアも掲載したという。 まるで中国軍が台湾のすぐ近くまで接近したかのような写真だが、実は加工されたものだった。 こうしたフェイクニュースに中国当局が関わっていると断定できることはまれだとした上で、台湾ファクトチェックセンターの陳偉婷(ちん・いてい)副編集長は「中国は強大で恐れるべきだと宣伝し、台湾の人々に恐怖を与えるもの」「台湾の人々が混乱したら、中国の目的は達成されます」と話す。 (11月5日放送『真相報道バンキシャ!』より)