明治HD「コスタイベ」承認は、化血研不祥事の「貸し」の対価ではないのか
注目すべきは明治HD子会社の「ルーツ」
私は、今回のレプリコンワクチンの承認でも、このような歴史が影響していると考えている。注目しているのは、明治がKMバイオロジクスという子会社を抱えていることだ。その前身は、戦前、ワクチンや抗血清の開発・製造を担った実験医学研究所だ。実験医学研究所は、伝研OBで1924年に熊本医科大学教授に就任した太田原豊一の提唱で同大学内に設置され、戦後、化学及血清療法研究へと改組した。KMバイオロジクスは、この化血研の医薬品製造販売業などを継承して2018年に発足している。 コロナワクチン開発での国益とは、安全保障上の観点から、国産ワクチンを保有することだ。関係者はこのことを最優先し、レプリコンワクチンの承認では、世界標準に反してでも安全性の評価を軽視した。 ワクチンは健康な人に接種するため、高いレベルの安全性が求められる。ファイザーやモデルナのワクチンの承認が議論された2020年ならともかく、コロナウイルスが弱毒化し、さらに他に使用できるワクチンがある現時点で、コスタイベを「仮免許」で承認しなければならない理由はない。 これまで明治が公表している臨床試験は、828人および927人を対象としたものの二つだけだ。ワクチンの安全性を評価するには規模が小さすぎる。明治は東南アジアなどで大規模な臨床試験を進めており、安全性に関する結果が出てから承認してもよかった。 私はコスタイベの可能性を高く評価する。注射したコロナウイルスのmRNAが体内で自己複製されるため、少量のワクチンで効果が長続きすることは、今後のパンデミック対策の準備のためにはありがたい。ただ、この可能性とコスタイベの安全性の検証は別次元の問題だ。
医療現場はコスタイベを求めていない
医療現場がコスタイベを求めていないことは、厚労省も明治も認識しているだろう。この状況で明治がやるべきは、大規模な臨床試験を完遂させ、その結果を一流医学誌に発表することだ。レプリコンワクチンは、前途有望なワクチンだから、厳しい査読を受けた後に、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』などの一流医学誌が掲載するだろう。ファイザー、モデルナは、こうやって世界の医学界の信頼を得てきた。だからこそ、世界中で接種された。 ところが、厚労省は明治に対して、このようなステップを求めなかった。そして、法定接種に組み込んだ。この結果、明治には巨額の利益が約束された。それは、医療現場での使用状況とは無関係に、政府がワクチンを買い上げるからだ。 今冬、厚労省は約3224万回接種分のコロナワクチンを確保した。そのうち、約427万回分がコスタイベだ。厚労省は購入価格を公表していないが、常識的には1回につき1万円程度だろう。その場合、明治は400億円以上を売り上げる。コロナワクチンが法定接種に組み込まれたため、この状況は当面続くだろう。 明治HDの2023年度の売上は1兆1054億円、営業利益は843億円だ。医薬品事業に限れば、売上2061億円、利益は227億円だ。コスタイベの利益が、明治にとっていかに大きいかお分かりいただけるだろう。 これはフェアじゃない。ほとんど利用されないことが予想できるワクチンに巨額の税金を注ぎ込む合理的な理由はない。なぜ、厚労省はこんなことをするのだろうか。私は、厚労省が明治に借りを返そうとしたからと考えている。