マイナーでは水しか出ないホテルに宿泊…DeNA・筒香嘉智の告白「いつも逆境が僕を強くしてくれた」
「メジャーですべてを受け入れ自分を見失っていった」
スタンドは総立ちになり涙を流すファンもいた。打った男は右翼席に向かって右手を上げる。5月6日に行われたヤクルトとの日本復帰初戦。本拠地・横浜スタジアムで、いきなり逆転の決勝3ラン本塁打を放ったDeNAの筒香嘉智(つつごうよしとも)(32)だ。本人が振り返る。 【独占直撃インタビュー!】帰ってきたスラッガー! DeNA・筒香嘉智の「素顔写真」 「大歓声に後押ししてもらいました。あまり記憶がない……。ダイヤモンドを一周している時は特別な時間でした」 ’19年末からメジャーリーグに挑戦し、5年ぶりに日本球界へ戻ってきた筒香。その野球人生はけっして平坦ではない。逆境を乗り越え続けた半生を、筒香が自身の言葉で振り返る――。 筒香は、和歌山県橋本市の野球好きの一家で育った。大阪の『堺ビッグボーイズ』に所属した中学時代は野球漬けの毎日で、あまり友達と遊んだ記憶すらないという。だが当時から試練に遭(あ)う。 「急激に身長が伸びたため、『成長痛』で野球ができなくなってしまったんです。1年半ほど続いたでしょうか。当初はツラかったですが、野球を指導してくれていた兄から『上手くなるためにはどうしたら良いか考えろ』とアドバイスされ、身体を鍛えることに専念しました。 効果的だったのが、『堺ビッグボーイズ』の練習をみている接骨院の先生が考案した体操です。ブリッジをしながら横に回転するなどの体操を続けるうちに身体の有効な動かし方や、負担の少ない動作がわかりました。成長痛が治るとスイングが一気に速くなり、打球の飛距離が飛躍的に伸びていたんです」 ◆「イチローさんの本しか」 強豪・横浜高校へ進んだ筒香が、ベイスターズからドラフト1位指名を受けたのは’09年10月だ。入寮時から「必ず一流の選手になる」という覚悟があった。 「日用品以外は、尊敬するイチローさんの本しか持参しませんでした。プロでも野球漬けの生活がしたかったんです」 しかし、筒香はたび重なるケガに苦しめられる。ようやく一軍に定着したのは、入団5年目の’14年のシーズンだ。その2年後の’16年にはホームランと打点の2冠を獲得(44本塁打、110打点)。日本を代表するスラッガーとして『侍ジャパン』の4番を任され、’19年末に夢だったメジャー移籍を果たす。ところが……。 入団したレイズでの1年目は、打率.197、8本塁打、24打点と期待を大きく裏切る結果に終わった。 「日本ではバットをレベルスイングからアッパー気味に振り抜いていましたが、レイズではダウンスイングでゴロを打つように求められたんです。初めてのメジャーなので『そういうものかな』と受け入れていましたが、徐々に自分を見失っていきました。打席に入っても自分が立っている感覚がない……。独自のスタイルを貫けず、すべてを受け入れてしまった。自分の弱さを思い知らされました」 降格したマイナーリーグでドン底生活も味わった。食事はパンにポテトという質素なメニュー。洗濯を頼むと靴下が戻ってこないことが頻繁にあり、ホテルに泊まればシャワーからは水しか出ない。移動は格安航空で、飛行機が一日近く遅延することもたびたびあった。自ら支払えばグレードアップもできたが、筒香は生活を変えることはなかった。 「僕だけ良い暮らしをしても意味ありません。チームには『特別扱いしないでくれ』と言いました。何事も経験することが大切だと考えていましたから」 ’23年8月にジャイアンツとマイナー契約を結んだ筒香だが、今年3月に自由契約となる。DeNAの三浦大輔監督から、電話がかかってきたのは直後のことだ。 「トレーニングをしていたアリゾナ州のホテルにいた時だと思います。15秒ほどの短い電話でしたが、三浦監督らしい言葉でしたね。『おい、帰ってこいよ。じゃあ、またな』と。DeNAは僕が渡米してからずっと気にかけてくれた。ジャイアンツを退団して頭の中が整理できていませんでしたが、三浦監督の言葉で再び横浜で優勝を目指すことが高いモチベーションになりました」 5年ぶりに古巣へ復帰した筒香は、米国での経験を活かし若手に声をかけるようになる。5月8日のヤクルト戦で落球し、落ち込むドラフト1位ルーキー度会隆輝(わたらいりゅうき)には「クヨクヨしているのはもったいない。イチローさんだってエラーするんだから」とアドバイスした。 「気づいたことを伝えているだけです。僕自身も日本に戻り、まだまだ本調子ではない。投手の間合いやボールの質など、日米の投手の違いに戸惑っている部分があるんです。でも、いつも逆境が僕を強くしてくれました。乗り越えれば必ず、より野球が上手くなると信じています」 昨年8月に自費約2億円を投じて地元・橋本市に建設した新球場の紹介冊子に、筒香はこう綴(つづ)っている。 〈失敗するということは、何かに挑戦した証(あかし)です。(中略)挑戦した者にのみ『成功』を得るチャンスが与えらえる〉 『FRIDAY』2024年6月21日号より
FRIDAYデジタル