「インフラの大手」なのにPBR1倍割れの常連…電力会社が市場で低評価な理由
「電力以外」手掛けるも稼ぎはわずか
とはいえ、電力各社も、外部環境に振り回されるのを黙って見ているわけではない。 主力である発電・送電事業の他にも、不動産や建設、情報通信事業といった「電力以外」の事業も手掛けている。各事業の位置付けは企業ごとに異なるが、電力事業におけるボラティリティの大きさを緩和する狙いも多少はあるだろう。 他業界の大手企業と同様、新規事業の創出やオープンイノベーションにも力を入れる。関西電力は約30年前から社内起業制度があることで知られる。九州電力は発電所の敷地内に陸上養殖場を建設し、サーモンの養殖を始めた。四国電力は異業種の高級ホテル事業への参入を発表している。 ただ、電力以外の事業が売り上げ全体に占める割合は、最も高い沖縄電力でも20%台だ。 さらに、電力以外の事業を手掛ける子会社の売り上げは、グループ会社からの受注が主で、外部の売り上げがわずかなケースも多いという。 電力事業は兆円単位の売り上げを出すビジネスなだけに、それに匹敵する2本目の柱を作るのは容易ではない。 西川アナリストは 「各社面白いことを考えてはいるものの、経常利益で1000億円を稼ぐ会社が1億、2億の新規事業に成功しても利益に響かない。人材的な意味でも、安定的な電気を作って供給してきた会社が海外事業や新規事業で稼ごうとした時に、人材の互換性があるのかは疑問」 と指摘する。
「PBR1倍割れ」脱するには
電力各社は株式市場から厳しい目を向けられている。多少の変動はあるものの、大手電力会社は「PBR1倍割れ」の常連だ。 電力業界がPBR1倍割れを脱する方法はあるのか。西川アナリストは、一つの可能性として抜本的な業界再編を提案する。 「火力発電だけをやる会社、送配電だけをやる会社…というように、事業部門ごとに分離して規模のメリットを追求してはどうか」 今、大手の電力会社は、電力供給が規制事業であった際の事業領域を概ね引き継いでおり、1つのグループに火力発電、原子力発電、再エネ、送配電、小売──など、多様なビジネスが併存している状態にある。 安定供給の側面から一体である点が合理的な側面もあるが、規制が残存する送配電分野は発電・小売からの中立性が義務づけられていたり、発電と小売は競争を促進するために内外無差別取引が求められていたりと、事業間の連携が難しい状況でもある。巨大な複合企業である現状から、各事業部門を機能別に分離して他社の同じ事業部門と統合することで、コングロマリットディスカウントが解消され、広く投資を集められる余地が生まれるのではないか──という。 「例えば、日本の電力会社の再生エネルギー部門を集めて会社を作ったら、水力発電によるキャッシュフローで再エネにどんどん投資する会社ができる。ESG銘柄にもなりますし、従来の電力会社には投資しなかった機関投資家も投資しやすくなるでしょう」(西川アナリスト) 事業部門ごとの再編はリスクが勝りそうにも見えるが、既に事例はある。JERA(ジェラ)だ。同社は東京電力ホールディングスと中部電力の火力発電部門と海外部門を統合した企業で、2015年に設立した。 「火力発電は斜陽に見られがちですが、(石炭やガスに代わる燃料の)水素やアンモニアによる発電の技術革新が進めば可能性がある。それを追求する人たちがまとまっていくのは不自然なことではない」(西川アナリスト)
土屋咲花