手首メモ“wemo”や筒形タオル“STTA”など…「ケンマ」逆転の発想力とは
手首メモや筒形タオル~便利なアイデア商品
大阪・堺市の耳原総合病院。1日500人もの患者が訪れる命の現場は誰もが秒刻みで大忙し。麻酔科の研修医・阿比畄輝一さんは、激務の中で少し困った癖がついてしまった。腕に直接、処置に必要な数値を書き留めており、毎日、消すのにひと苦労だったという。 【動画】強烈なミントで眠気を覚ます「アロマショット」 そのわずらわしさから解放してくれたのが、去年から使い始めた手首に巻くメモ「ウェモ」(1320円)。シリコン製のバンドの表面に文字が書けるようになっていて、自由にメモを取ることができる。手首に巻けるから、仕事中邪魔にならない。特殊な加工がされているので、ボールペンで書いても消しゴムで簡単に消せ、繰り返し使える。
「これなしで仕事をするっていうのは、ちょっと考えにくいです」(阿比畄さん) 現場で働く人たちに刺さっている「ウェモ」。東京・渋谷の「ハンズ」渋谷店の文具売り場には専用コーナーが。2017年の発売以来、シリーズ累計の販売数が100万個以上の大ヒット。「最前線で使われる方、例えば介護の仕事や工事現場でも使われる方が多い」(「ハンズ」渋谷店・佐藤安美さん)と言う。 「ウェモ」を作っている「コスモテック」の主力事業は精密機器を保護する特殊な粘着フィルムの製造販売だ。同社はリーマンショックを機に、一時は売上が6分の1にまで激減、経営難に陥っていた。 「存亡の危機でした。いろいろなチャレンジをしてもうまくいかないことがたくさんあった」(高見澤友伸社長) そんな暗闇の中で出会ったのがデザイナーのケンマ代表・今井裕平(42)だった。今井は「コスモテック」の技術を使って「ウェモ」を生み出した。今では「ウェモ」が、売り上げ全体の15%を占める主力事業に成長した。 「会社を助けてもらったと感じています。我々にとって救世主です」(高見澤さん)
今井が生み出したヒット商品は「ウェモ」だけではない。筒形のタオル「スッタ」は水滴による日常のストレスを解消してくれる商品だ。 特に「スッタ」が活躍するのが雨の日。自転車のサドルやカバンについた水分を、軽くなでるだけでみるみる吸い取る。絞ればすぐに乾くため、使った後もそのままポケットに入れて持ち運べる。価格は2750円。決して安くはないが、発売後には一時、大手ECサイトの総合ランキングでトップ10に入るほどの人気を見せた。スマホの画面が曇った時に拭くなど、若者のライフスタイルにもマッチした。 東京・新宿区の雑居ビルにオフィスを構えるデザイン会社ケンマは2016年に創業したスタッフ9人の小さな会社だ。初めてのヒット商品が「ウェモ」だった。 「看護師さんがよく手の甲にメモするのを見かけていたので、メモが取り出せない状況で役に立つものができないか、と」(今井) 今井が得意とするのは真逆の発想。視点を常識の反対側に向けるのだという。 「企業が考えていることに対して真逆の発想で、かつ、企業側が求めている答え、要件に合致すると、むちゃくちゃパワフルなアイデア、企画になる」