<インド・炭鉱>沈んだ村(その2) ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
「明け方の3時半くらいだったか、突然家が震えだして大きく傾いたんだ。妻を連れて慌てて飛びだしたよ。翌日に役人が来て、数キロほど離れた空き地へ行けって。ここでテントを支給された」 50歳のカピルが言った。地盤沈下で崩壊したアンガルパトラ村から避難してきた人たちの住むテント村には、まだ生活の目処のたたない村人たち10家族ほどが、家財道具を押し込んだテントのなかで暮らしていた。
住人の多くは政府に批判的だ。石炭増産のために土地が必要な政府と、採掘地から立ち退きたくない住民たちのあいだの摩擦は以前からあった。 「政府が無作為に石炭を掘り起こしていくからこんなことになるんだ。地下火災だって昔からわかっていたのに、対策を立てずにこんな事態を引き起こした。俺たちを立ち退かせるためさ」 テントの中で湯を沸かす妻の姿をみながら、家を失ったサンパッドが顔をしかめた。 (2014年12月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.