中絶、緊急避妊薬、トランスジェンダー“不妊手術”への補償… 国連が日本政府へ「性と生殖に関する健康と権利」多数の勧告
10月17日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府審査を開催。同月29日、CEDAWは日本における女性の人権状況について、改善のための日本政府に対する勧告を含む「最終見解」を公表した。そのなかには「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」に関する勧告も多数含まれている。
避妊と中絶に関する勧告が「重要度の高い項目」に指定される
11月1日、 ジュネーブでの現地審査に参加したNGOなど4団体(公益財団法人「ジョイセフ」、「Tネット」、「#なんでないの」プロジェクト、一般社団法人「あすには」)の代表者らが記者会見を開いた。 「ジョイセフ」は「SRHR for All(性と生殖に関する健康と権利をすべての人に)」をキーワードに活動してきた団体。今回の審査にあたって、堕胎罪の撤廃、安全な中絶や避妊法へのアクセス、同性間の婚姻の法制化、トランスジェンダーのリプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)や健康の問題、子どもを含むLGBTQの人びとを差別から守る法整備などについて、日本政府に対する勧告を発出するようCEDAWに求めたという。 ジョイセフは今回の勧告について、「緊急避妊薬を含む近代的避妊法へのアクセス改善」および「中絶における配偶者同意の撤廃」が重要度の高い「フォローアップ項目」に指定された点や、日本に対する勧告としては初めてトランスジェンダーのリプロダクティブ・ライツに言及する内容が含まれていた点を評価するコメントを発表した。 また、避妊法や緊急避妊薬へのアクセス改善などを求めて活動する「#なんでないの」プロジェクト代表の福田和子氏も、「緊急避妊薬の年齢制限の撤廃」(現状、購入者が 16~17 歳の場合は保護者の同意が必要とされる)や「中絶薬の全国的かつ安価な提供」が勧告された点について「現状に即した具体的な勧告」「思っていた以上の結果が出た」と評価した。
性同一性障害特例法による「不妊手術」への補償
会見にて、ジョイセフ代表の草野洋美氏は、CEDAW委員と日本政府の間で行われた「建設的対話」について紹介。前記した緊急避妊薬や中絶における配偶者同意などに関する質問のほか、教育現場における包括的性教育の現状や、自主的な不妊手術における配偶者同意などについても、委員は日本政府に質問を行った。 そして、2023年10月に違憲判決が出された、性同一性障害特例法における性別変更のための「手術要件」についてもCEDAW委員は日本政府に質問を行っている。 今年7月には、旧優生保護法を違憲とし、同法に基づいて実施された強制的な不妊手術などの被害者に賠償を命じる判決が出され、10月には補償を行うための法案が参議院で可決・成立した。 CEDAW委員は、戸籍上の性別を変更するために本人が望まぬ不妊手術を余儀なくされたトランスジェンダーの人びとに関しても「優生保護法の被害者と同様の補償を受ける権利があるか」と質問している。これに対し日本政府(法務省)は「性同一性障害特例法に基づく手術と、優生保護法下での手術は、まったく別の要件・制度に基づくものである」「無関係である」としながらも、「2023年の特例法の違憲判決を受けて、法務省としては適切に対応したい」と回答した。 そして、CEDAWの最終見解には「手術要件を遅滞なく改正すること」や「不妊化措置を受けなければならなかったすべての被害者が、賠償を含む効果的な被害回復を受けられるようにすること」との勧告が含まれている。 トランスジェンダーの当事者団体「Tネット」の外部アドバイザーであり、SRHRに関してCEDAWに提出したレポートの執筆にも加わった高井ゆと里氏(群馬大学准教授)は、国家による法的な承認を求めた当事者たちに不妊化手術を強いてきた優生保護法と性同一性障害特例法は「類比」できると指摘したうえで、勧告の意義を評価した。 「性同一性障害特例法によって、トランスの人びとは『二流市民』として扱われ、市民社会から切り離されてきた。勧告は、傷つけられたトランスと市民社会の関係の修復を求めるものと理解している」(高井氏)