“大きいサイズ”のメンズ服はレディース服より苦戦する?専門店を営む坂善商事にそのワケを聞いた
SNSを中心に体型や身長などにとらわれず、おしゃれを楽しもうという投稿は頻繁に見かけるようになって来た。ただ、その多くはレディース服で、メンズ服では依然としてモデル体型の男性が中心となっているのではないだろうか。 【写真】スーツを中心とした紳士服を販売していた創業時の様子 体格に合わせた洋服を専門的に販売するアパレルブランドやモデルに体の大きな人を起用するハイブランドも出てきているなかで、メンズ服にはその傾向がまだあまりないように思われる。なぜ、メンズ服では大きなサイズの服がなかなか浸透しないのだろうか。大きいサイズを取り扱う店舗・ECサイト「サカゼン」を運営する坂善商事株式会社店舗営業本部・広報の加藤俊彦さんにその理由を聞いてみた。 ■ただサイズを大きくするだけじゃない?知られざるこだわり 坂善商事は1946年に紳士服、とりわけスーツを中心に製造・卸し・販売する企業として創業。今から38年前、店舗が両国国技館の近くだったことから力士の顧客が多く、なかなか合うサイズがなく困っている彼らの要望を何とか叶えたいという想いから大きいサイズの洋服を作り始めたそう。「大きいサイズというニッチなものだからこそ、サカゼンにしかないものを作ろうという想いを持っている」と加藤さんは語る。誰でもそつなく着られるシンプルな商品を中心としながらも、トレンドも取り入れてサイズ関係なくファッションを楽しめるようにしているという。 「一言で体が大きいと言っても、抱えている悩みは人ぞれぞれで、体型も個々で違ってきます。背が低いけど横に大きい、背は高いが体躯が細い、逆三角の体型をしていてウエストと肩幅の差が大きい…など、普通の服をそのまま大きくしただけでは解決できないような悩みに寄り添った商品づくりをしたいと考えています」 サカゼンの大きいサイズは通常サイズからそのまま大きくするのではなく、バランスやディテールにもこだわって大きなサイズでも違和感のないようにデザインしているのだそう。さらに、袖の長さにいたるまで日本の規格だと短いので、調整しているという。 また、速乾、消臭などの機能を組み込んだ洋服を作ったり、ズボンには特に耐久性を高くする加工をしたりしているそう。その理由には、体の大きい人はまたずれの回数や力の大きさから普通より3倍痛みやすいためだという。 ■レディース服と異なりなぜメンズ服は苦戦する? こうした企業努力により徐々に顧客を増やしているサカゼンだが、大きいサイズのファッションにはいくつか高いハードルを感じることがあるという。 「いくつかハードルがあると感じることがありますが、中でも大きいサイズの服は普通よりも使う布が多くなるせいもあって、価格設定には悩まされます。某プチプラブランドでは1000円しないくらいでTシャツを販売していますが、その感覚で価格だけを比較をされてしまうとすごく高価に感じちゃうみたいです」 大きいサイズのレディース服においては渡辺直美さんなどの影響力もあり、日本でも体の大きい女性がおしゃれを楽しめるようになってきている。一方で男性については、食生活の乱れといった印象や、体が大きいことで威圧感を抱かれるといったネガティブなイメージが女性より強くなってしまっているようだ。そもそもの美意識に対する男女差や、日本独自の価値観からダイバーシティが浸透しづらいという背景もその一因となっていると考えられるそうだ。 「弊社では石塚英彦さんにアンバサダーをしていただいており、今年で20周年を迎えます。就任当初から今でも、かなりの反響をいただいております。ただ、石塚さんのイメージはやはり、包容力ややさしさであって、渡辺直美さんとは打ち出すイメージが異なるかと思います。メンズの大きいサイズには“ファッションシーンの先駆者”となるような存在がまだいないというのも大きいかと思います」 男性にも渡辺さんのようなフロンティアとなってくれるような存在が必要なのかもしれない。加藤さんは「サカゼンがその先頭に立つ企業となることを目指す」と語った。 ■大きい人のコミュニティへ出向いて知ってもらう活動を まだまだ認知度が低いと感じているという加藤さん。引き続き、アンバサダーとしてタレントを起用するほか、これまでしっかりとできていなかった広報やPRを確立させていくと語った。加藤さん自身も大きい服のモデルとなって、ECサイトなどで服の紹介をしている。 「現在は、大きいサイズといえばサカゼンと言ってもらえるような、共同体の中心となることを目標にしています。大きい人が集まるラグビーやプロレスなどのスポーツコミュニティに参入し、一緒に応援していく活動をしていきたいと考えています」 足を使ってコミュニティへ出向くという、地道ながらも着実に結果の出る活動を行っていくという。また、制服・ユニフォームのゼロからのプロデュースという事業も行うようになり、介護施設の制服などを手掛けているそう。こうした実績を積むことでサカゼンを知ってもらえるきっかけを作りたいと加藤さんは語った。大きいサイズを作り、機能性やディテールにもこだわるサカゼンだからこそできるプロデュースかもしれない。 多様性の在り方が注目される昨今、サカゼンの今後の活動にも注目したい。 文・取材=織田繭