大津・保護司殺害事件の容疑者「仕事をすぐに退職」 保護観察対象者が苦しむ“文化的葛藤”と保護司の“役割”
保護観察対象者が苦しむ「文化的葛藤」
保護司の業務において留意すべきことは、対象者が社会復帰する際の「文化的葛藤」である。われわれ慣習的職業社会で社会化されてきた者にとって“当たり前”のこと、たとえば給与の締めと払い日の存在、社会保険の加入義務などが理解できず「なぜ、働いたお金が今日もらえないのか」「健康保険など入った覚えはない」など、苦情を耳にする機会がある。 あるいは、住所変更手続きやハローワークの求職者手続きなどができない人も一定数存在する。 保護司は、彼らが当たり前の社会の仕組みに戸惑い、文化的葛藤に苦しみ、生きづらさを知覚しないように、辛抱強く教示することも重要な仕事である。
保護司活動の限界
ただ、そうとはいえ、保護司だけでは対応できない問題を抱えている対象者も少なくない。それは、薬物依存等により身体的・精神的疾患を抱えている触法障害者、軽度の知的障害がある者など、医学的サポートを必要とする人である。 あるいは、多重債務、親権問題、遺産問題、DVなどの問題を抱える対象者には、法律的な専門知識がないと適切なアドバイスができない。 対象者が社会復帰し、新たな人生への一歩を踏み出すにあたっては、保護司のみならず、各分野の専門家が連携して、彼らが直面する問題や生きづらさを軽減する必要がある。 滋賀県大津市で起こった事件においては、対象者が抱える問題を、ひとりの保護司が対処するには重すぎたのかもしれない。 同様の悲劇を繰り返さないためにも、事件の原因を究明し、保護司が単独で対応困難なケースは、各種専門家への応援要請が可能な仕組みなども視野に入れる必要があろう。
福岡市中央保護区保護司会の試み
筆者が所属する福岡市中央保護区保護司会(楠正信会長)では6月から、更生保護活動の質的充実のため、41名の各種専門家によって構成される任意団体「リスク法務実務研究会」と協働して、保護司や対象者の無料法律相談を開始。「週休2日欲しいが雇用主にどのようにお願いしたらいいか」「行政の対応に不満があるが、どこに苦情を申し立てたらいいか」などの相談が寄せられている。 楠会長は、「対象者が抱える問題はさまざまだが、専門の士業の方に相談することで解決策が見いだせたら、相談者が抱える問題や生きづらさの軽減につながるのではないか」と期待する。