大津・保護司殺害事件の容疑者「仕事をすぐに退職」 保護観察対象者が苦しむ“文化的葛藤”と保護司の“役割”
保護司のもっとも重要な役割
わが国では、法務省保護局と民間のボランティアとの協働により、更生保護活動が推進されており、保護司はその中で中心的な役割を果たしている。 保護司が法務省保護局から保護観察対象者(以下、対象者)の担当を依頼され、業務としてなすべきことは、おおむね月2回の面談である(保護観察期間については、仮釈放者は残刑期間満了日まで。保護観察付執行猶予者は、判決確定日から執行猶予期間の満了日までなど、保護観察の種別により多様)。この面談において、対象者の就労状況や生活状況を聴取し、困っていることがあれば相談に乗る。 保護司の役割としてもっとも重要なことは、対象者を社会から排除・孤立させるのではなく、社会的に包摂させ、再犯に至らないよう立ち直りを支えていくことである。
保護司と“就労支援”
以前は保護司が、仕事が決まらない対象者を法務省に登録している協力雇用主(罪を犯した人を雇用する企業)に紹介する活動を行っていた。しかし昨今では分業化され、就労については更生保護就労支援事業所(以下、就労支援事業所)が担当している。 筆者は現在、保護司の任に就いているが、以前は就労支援事業所の所長として、保護司と協働しつつ、対象者や満期出所者の就職・就労定着支援に従事していた。 対象者の就労は就労支援事業所が担当するが、就労が継続するよう見守り、叱咤(しった)激励するのは、雇用主と担当観察官、保護司の役割である。
保護司の仕事は“危険”なのか
筆者が就労支援事業や保護司業務に就く際に、対象者の危険性につき、法務省から特段の注意を促されてはいなかった。実際、雇用主や知人から、「対象者の支援をして危険ではないのか」という質問を受けるが、筆者の知る限り、彼らが暴力を振るったりしたという例は聞いたことがない。 就労支援に携わっていると、年間に100人以上の対象者を支援することになる。彼らの中には自力で就職ができない人が多いので、担当保護司と連携しながら、就労から定着まで面倒を見る必要があった。そうした経験を振り返ると、怠業傾向者は一定数存在したが、暴力的な者は記憶にない。ゆえに、危険性を知覚したことはないのである。