「時間にだらしないと将来大変よ」では納得しない…発達障害の子に注意するときに必要な"発想の転換"
■自分なりのルーティンをつくる このように書くと、「そもそもADHDなのに、なぜ2時間前につけるんだ」と疑問に思うかもしれませんが、実は私は「喫茶店で本を読む自分はかっこいい」と思っているからです(ここだけ聞くと変な人ですね)。 そのため、家にいるときに「喫茶店で本を読むか!」とイメージすると、「早く行かなきゃ!」とモチベーションが働いて、さっさと用意をして、仕事に向かうことができるのです。 また、2時間あれば何か忘れ物をしても、途中コンビニで買い足すこともできますし、トラブルに巻き込まれても大丈夫です(ADHDは、なぜかトラブルに巻き込まれることが多いです)。そのため、今では時間に関するトラブルは減りました。 このような、自分に合ったルーティンを確立するために大事なことは、「自己理解」です。「自分はどんなことにモチベーションが働き、どんな行動が苦手で、できないのか」という自己理解を進めると、自分なりのルーティンをつくることができます。 特性的にできないことが多い発達障害の人は、自己理解を進めて、得意を活かして、苦手なことは自分に合った環境調整をしたり、カバーする道具を用意し、使いこなすことが大事です。 そのためにも、子どもの頃からの自己理解は、自立にはとても大切なのです。 ■やりたくないことをやらせたいときはご褒美を用意する 「うちの子は、好きなことはしますが、やりたくないことは嫌だとわがままを言います」という悩みを持つ保護者は多くいます。 こんなときは、「本人がやりたくないことをさせたいときは、ご褒美を用意する」という意識が大切です。
■給料が出ない仕事をする大人はいない しかし、ご褒美作戦を提案すると、「ご褒美がないと、やらない大人になったらどうするの?」と心配されるケースもあります。 もちろん、好きなことを生かして成長させることは大事ですが、今の世の中は、好きなことだけをして生きていけるほど、成熟していないと私は考えています。 特に、発達障害の子どもは、興味関心が特定の分野に集中しているため、自立に必要なスキルにモチベーションが働かないこともよくあります。 よって、興味のあることはどんどんやらせる。 一方で、興味のないことをしてほしい場合は、たとえば、「夕飯の準備を手伝ってくれたら、明日の分のチョコボールをゲット!」など、ご褒美を設定することが大切です。 大人は「ご褒美はけしからん」と思う人が多いですが、もし、今やっている仕事が「給料がなくなりました。無償でやってください」と言われたら、誰もやらないでしょう。 子どもも同じです。 ■自己肯定感を高めることにも繋がる 世の中好きなこと以外にも、やったほうがいいことがあることは、大人も子どももわかっています。 だから、能力の高い子どもは、興味は関係なしに取り組んでいる子どもも多いです(学校に来るなども代表的な事例です)。 しかし、発達障害の特性がある子は、興味のないことには、体が動きません。 これは身体の反応なので、何をどう説得しようが動きません。 それならば、「~をしたら、ご褒美をゲット」というモチベーションの源泉を外部に設定するほうが、子どももやる気が出てスムーズに動けます。 また、成功体験も積めるので、自己肯定感を高めることができます。 「でも、ご褒美がなくなるとやらなくなるんじゃないですか?」と聞かれますが、当然ご褒美がなければやらなくなります。 しかし、一度覚えたスキルは残ります。 将来1人暮らしをしたり、働き始めたときに、「昔、家で料理つくったり、洗濯したりしたな~」と思い出せればいいのです。 ---------- 前田 智行(まえだ・ともゆき) こども発達支援研究会 代表理事 放課後等デイサービス、児童発達支援事業所、小学校等にて500名以上の支援に関わる。ADHD、ASDの当事者。専門知識と当事者経験に基づく知見を発信すると同時に、現在は星槎大学大学院修士課程にて研究活動を行う。著書に『ユニバーサルデザインの学級づくり』(明治図書出版)『子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本』(ソシム)、『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)などがある。 ----------
こども発達支援研究会 代表理事 前田 智行