年末ボクシング5大世界戦。本当に見るべき試合はどれ?
八重樫も、韓国の名世界王者、張正九がイラリオ・サパタ(パナマ)からWBC世界ライトフライ級王座を再戦で奪い取った試合の映像を何度も見て五十嵐戦に臨んだ。 真っ直ぐに懐に入ろうとすると被弾のリスクがあるため、左へ動こうとする相手に対して、こちらも左のフックパンチをひっかけるようにして使って相手の動きをロック。自分の頭を相手の懐へ押し込むなど、独特のリズムやテクニックが必要だというのである。 「僕もサウスポーが苦手だった。木村以上かも。試合でどれだけ短い時間で適応できるか。木村は12ラウンドを戦うつもりでいったほうがいい。粘り強く同じことを続けること。どちらも根負けするようなことはないだろうが」 その上で八重樫は五十嵐有利説を持ち出す。 「五十嵐は、僕と戦ったときとスタイルが変わっている。最近は足を止めて打ち合うし、経験でうまくさばき切るように思える。後半に木村が盛り返すが逃げ切られるパターンかも。或いは、五十嵐は目の上をカットしやすいので、五十嵐にリードされたまま途中で試合が止まるパターンもあるのかもしれない」 元世界王者2人の予想が違うのだから、いかにこの試合が難解かがよくわかる。 木村はデビュー戦でサウスポーに2度ダウンを奪われTKO負け。そのトラウマから長らく解放されることができなかった。今回、香港、タイで300ラウンド近い対サウスポーとのスパーで苦手意識を克服したというが、こればかりは試合にならないとわからない。ただ木村が前に出れば、頭と頭がぶつかる“肉弾戦”にはなる。ここ数試合、五十嵐はカットする試合が目立つ。もし偶然のバッティングではなくパンチで切ったと審判に判断された場合、その流血は五十嵐にとって不利な材料だろう。 木村は、この7月に北京、ロンドン五輪連覇を果たしプロ転向した中国の英雄、ゾウ・シミンを敵地の上海でTKOに下し、中国で「福原愛の次に有名な日本人アスリート」となったボクサーである。家賃5万円、1Kのアパート暮らしで、酒屋の配達で生計を立てているバックボーンもハングリーからのサクセスストーリーとして注目を集めている。 一方の五十嵐も、アテネ五輪代表からエリート街道を進み、WBCタイトルを戴冠したが、4年前に八重樫に判定で敗れてから苦渋をなめた。階級転向をして再度元に戻すなど迷走を続けて眼窩底骨折も負った。五十嵐も、また生活の足しにするため、ガソリンスタンドやインストラクターの手伝いなどのバイトに時間を奪われるようになった。もうエリートではない。そして「この試合で負けたら引退」の覚悟を持ってリングに上がる。2人が背負う人生絵図もまた興味深い。