「そば弁亭」で94年に発祥、セイコーマートの「ホットシェフ」 札幌から離れた足寄店でこっそりと
【北海道】北海道内にくまなく出店し、道民に言わずと知れたコンビニエンスストア「セイコーマート」。その代名詞ともいえる店内調理の「ホットシェフ」の始まりは1994年、足寄町内の国道241号沿いにある「足寄店」だった。「温かいものが食堂以外で出てくるなんて考えられない」。長時間営業で食品や飲料を扱うコンビニの利便性の高さが十勝にも浸透してきた平成初期、常識を超えた試みは町民らを驚かせた。 【動画】セコマの「ホットシェフ」 赤尾社長に聞く
カツ丼や親子丼、大きなおにぎり、フライドチキンなど約30種類が、赤い看板の一角に並ぶなじみの光景。セコマ(札幌)が展開するセイコーマートは、道内と北関東にある全1193店舗(10月末現在)のうち約8割にホットシェフを導入している。 セイコーマートは71年に札幌市内で誕生した「日本で現存する最も古いコンビニエンスストアのひとつ」(同社ホームページより)。十勝管内のコンビニも、89年のセイコーマートの帯広出店を皮切りに、サンクス、ローソン、セブン―イレブンが次々と進出し、店舗数を拡大していた。 創業者の故赤尾昭彦氏が経営の参考にしていたのは米国。食品小売店内にファストフードがあり、サンドイッチやピザ、ドーナツを調理して提供する様子を目にした。そこでセイコーマートでも「できたて」商品を提供しようと、94年に足寄店で店内調理を始めた。
フライドチキンが大好評
人口や出店数が多い札幌よりも地方の店舗で試験的に導入するため、当時500ほどあった店舗の中でも比較的来店者数が多く、売り上げが高かった足寄店を選んだ。昭彦氏の長男洋昭社長(48)は「コンビニ業界は模倣も多いので、遠く離れた場所だった」と説明する。 最初は「そば弁亭」という名称で開始。そば、弁当、カレーライス、フライドポテト、ザンギなどのメニューが、厨房(ちゅうぼう)とつながった店内の一角に掲げられ、注文を受けてから提供する形態だった。
足寄店での初日は告知せずに迎えたが、9万円を売り上げ、好調なスタートとなった。同社の資料には、足寄では食べられなかった「フライドチキン」が食べられるということで、多くの客が来たという記録が残っている。 国道沿いにある町内の大西自動車工業会長の大西節夫さん(78)は「始まった時からメニューが充実していて、とにかく混んでいた」と振り返る。仕事の日の昼食はホットシェフの弁当を買い、今でも釣りに行く時は夜明け前に必ず筋子のおにぎりを購入。「足寄は林業や土木の人も多い。みんな重宝してきただろう」と話す。店舗まで徒歩3分ほどのコスモ測量設計に勤務する女性(47)は、昼になると社員そろって買いに行った。「温かいホットシェフの商品は魅力的。おにぎりもおいしいし、カレーもよく買った」と語る。 ホットシェフは導入から1年余りで26店まで増やしたが、売り上げに苦戦する店もあり、10年以上は忍耐の時期が続いたという。それでも売れ筋や作業効率などを見ながら試行錯誤し、徐々に知名度も高まった。