《連載:検証 茨城・つくば市政 市長選、市議選を前に》(下) 先端技術を日常に 実証実験、新興企業支援
子どもたちを乗せた4人乗り電動カートが、茨城県つくば市吾妻のセンター地区を走行する。運転席に大人はいるが、手はハンドルから離れている。スピードは時速5キロとゆっくりだ。 「こどもMaaS(マース)サービス」の実証実験。つくば市、車載機器専門商社の東海クラリオン(愛知県名古屋市)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の3者が実施する。カートはあらかじめ登録された経路に沿って動き、障害物があればセンサーが検知して止まる。人工衛星からの位置情報を取得するJAXAの測位技術も使われている。 世界で開発が進む自動運転車は高額であることがネックだ。実験で使う車両は既存のカートに自動運転システムを後付けで搭載し、低コスト化が見込まれる。 つくば市は、放課後の児童クラブから塾に向かう時に使える自動走行モビリティとして、2、3年後の導入を見据える。3人の子どもを実験に参加させた女性(38)は「共働き世帯にとって親の送迎負担が軽くなる」と期待感を示す。 市は2022年、最先端の行政サービスの提供を目指す国の特区「スーパーシティ」に指定された。市が策定した「スーパーサイエンスシティ構想」はサービス分野として「移動・物流」「行政」「医療・健康」など六つを選定。特区の規制緩和を活用し、先端技術の社会実装に向けた実証実験に取り組んでいる。 これまで、スマートフォンを使ったインターネット投票やバスの自動運転、1人乗りモビリティのシェアリングサービスなどを展開。多い時で年間10件近くの実証実験をこなす。 優先課題の一つが、1人乗りモビリティの最高速度を現行の6キロから10キロに引き上げる道路交通法の規制緩和だ。24年度は内閣府の採択事業となり、第三セクターのまちづくり会社を通じ、筑波大構内で実験をスタート。警察庁と協議しながら今後は公道でも実験を行う予定だ。 「一丁目一番地」に位置付けたネット投票は公職選挙での実現は難しい。当初、今月の市長選と市議選での導入を狙ったが、投票所での投票が原則と定める公職選挙法の壁は高い。 「実証実験の成果を一つでも多く示し、つくばに住んで良かったと思えるようにしたい」。科学技術分野を所管する市政策イノベーション部の高橋安大部長は話す。 国家プロジェクトとして約2兆円をかけて造られた筑波研究学園都市。「つくばは研究成果を実現するミッションがある」。担当職員は口をそろえる。 全国から優秀なビジネス事業案を募集し、市内の実証実験をサポートする「つくばスマートシティ社会実装トライアル支援事業」は出口戦略を考えた代表的な施策だ。 市は17年度の事業開始以降、39件を支援。本年度は筑波大発ベンチャーでイベント情報検索システムの「Palames(パラメス)」など4件の提案を支援対象に選んだ。 パラメスは既存の検索システムに電子クーポン機能を付け、市周辺地区の飲食店で利用できるプランの実用化を目指す。熊谷充弘社長(23)は「資金、人脈がない学生起業家に、つくば市は心強いパートナー。多くのベンチャー企業が集まるように、これからも挑戦する姿勢を見せてほしい」と語る。
茨城新聞社