「決着をつけましょう」と柳葉敏郎を説得…亀山千広Pが明かす「室井慎次」二部作を“家族の物語”にした理由と、「踊る」の“次”
室井を通じて描かれる「家族像」は不器用だけれど温かい
今作の室井は、警察を早期退職し、秋田の山奥で犯罪被害者や加害者の子どもたちの里親となり、ほぼ自給自足の生活を送っている。同シリーズを見てきた視聴者は意外に思ったはずだろう。なぜなら、テレビシリーズで父親を殺害された柏木雪乃(演:水野美紀)に対して、室井は心情を考慮せず、強引な取り調べを行った。劇中で室井は成長していくものの、かつては被害者遺族に寄り添う姿勢など見せなかった人物だからだ。 「僕もプロットを見たときに驚いた。同時に、なるほどとも思った。室井は組織に生きた人間です。その中で、次第に血を通わせようと奔走し、本庁と現場をつなごうとしていく。しかし、今作の室井は無職です。つまり、組織に打ちひしがれ、叶わなかったということ。その彼が、何に血を通わせることを求めたのか。そして、それは“家族”であり“地域コミュニティ”だと思い至ったのならば、僕は室井にしかできない物語があると思った」 映画の中で描かれる室井の家族は、疑似家族だ。もっと言えば、後ろめたさを抱える子どもたちを養っている。タカは、殺人事件被害者の子。リクは、服役中の加害者の子。杏は、「踊る大捜査線 THE MOVIE」に登場した凶悪犯・日向真奈美の子だ。 「前後編を通じて、“お父さん”という言葉は出てきません。徹底して子どもたちは、“室井さん”と呼び続ける」 亀山が説明するように、室井と子どもたちは組織的ともいえる家族の姿で描かれる。家事の役割分担も明確で、子どもたちに容易に干渉しようとはしない。不器用とも受け取れる室井の姿だが、彼が新城賢太郎(演・筧利夫)と組織に関する話をしていると、「それは家族って言うんだ」とリクが無邪気に指摘するシーンがある。 「家族というのは、組織の最小単位でもある。地域のコミュニティも組織ですよね。そうした組織がたくさんあって社会は成り立っている。最小単位である家族のあり方を考えることは、現在の日本社会を考えることにもつながると思った。今の日本において、大切なテーマだろうと」